[ 2013.1.31 ] グラミー賞で注目部門となりつつあるエレクトロニック・ダンス・ミュージックと、アメリカで急成長する新たな潮流、EDM
そんなわけで、現在アメリカの若者の間では、“EDM”とは従来型の“ハウス”や“テクノ”ではなく、よりフレッシュでエレクトロニックな新ジャンルの音楽と捉えられており、さらには、ポスト・ヒップホップとさえ考えられるまでになっています。そして、それを証明するかのように、R&Bシーンのトップ・アーティスト達も、こぞってEDMを自作に取り入れ始めるようになっています。また、“EDM”というワードは、“ザ・サウンド・オブ・ヤング・アメリカ”、“ヒップホップ以来、最大のユース・ムーブメント”といった形容と共に、ビルボード、ローリング・ストーン、MTVといったメジャー音楽メディアのみならず、一般の新聞や、フォーブスといった経済誌にも登場するようになっています。
もちろん、こうした動向を反映し、シーンの拡大は現在社会現象化しています。例えば、2012年、EDMのビッグ・フェスティヴァルであるエレクトリック・デイジー・カーニヴァルには、3年前の2.5倍にあたる32万人もの人が集結。シーンを代表するデヴィッド・ゲッタ、スクリレックス、スウェディッシュ・ハウス・マフィア、ティエスト、スティーヴ・アオキ、デッドマウスといったアーティスト達は、次々とアメリカの有名ロック・フェスのメインステージに出演。そして、彼らの単独ギクはアリーナ規模の会場で開催され、そのチケット代やギャラは、トップ・クラスのポップ〜ロック・アーティストと同等、場合によってはそれ以上の金額とも言われるまでになっています。ちなみに、EDMシーンのスーパースターDJ、ティエストが稼ぎ出す金額は、1年間で約17億円にもなるというので、これはもう無視できないでしょう。
■今年のノミネートは、EDM一色に
さて、ここで、授賞式が迫ってきた今回、第55回グラミー賞の、最優秀ダンス・レコーディング賞、最優秀ダンス/エレクトロニカ・アルバム賞、最優秀リミックス・レコーディング, ノンクラシカル賞のノミネートはどうなっているのかと見てみると、もはやEDM一色といっていい状況です。
最優秀ダンス・レコーディング賞にノミネートされたアヴィーチー、カルヴィン・ハリス、スウェディッシュ・ハウス・マフィア、スクリレックス、最優秀ダンス/エレクトロニカ・アルバム賞にノミネートされたスティーヴ・アオキ、デッドマウス、カスケード、スクリレックス、最優秀リミックス・レコーディング, ノンクラシカル賞にノミネートされたアックスウェル、エリック・プリーズ、スクリレックス、トミー・トラッシュ、いずれもEDMシーンを代表する大人気アーティストです。かつて、グラミー賞でここまで統一性のあるノミネートが並んだことはなかったのではないでしょうか。あえて上記のラインナップから省いたケミカル・ブラザーズやフォーテックの名に、もはや懐かしさを覚えるほどです。どの部門にもスクリレックスがノミネートされている点は、見逃せないところですね。
オーガニックなサウンドのアーティストやバンドに注目が集まる一方で、より若い世代の間で急速に広まっているEDMと、そのシーンの音を全面的にプッシュしたノミネートが際立つ、第55回グラミー賞のエレクトロニック・ダンス/クラブ・ミュージック系3部門。今年は、昨年以上に時代の移り変わりが感じられる、注目カテゴリーとなっています。そしてそう遠くないうちに、この部門に属するアーティスト達が、主要4部門にもノミネートされる日が来るかもしれません。アメリカで華開いたEDMは、それほど2010年代のメインストリームになる可能性が高いシーン、ジャンルへと拡大しています。
文:谷上史憲 / Fuminori Taniue(iLOUD)
コラム INDEX
Photo:Getty Images、WireImage、FilmMagic、Getty Images for CMT
Getty Images for MTV 、Getty Images Entertainment