2012年度のグラミー賞ノミネーションを見て「トレンドが変わってきた」と語るJun Ishizeki氏。グラミー賞ノミネート経験を持つ彼が、ノミネート後の舞台裏、そして自身の専門分野であるサウンドエンジニアとしての立場からノミネート作品と日米の音作りの違いについて語る。
[ 2013.1.11 ]グラミーノミネーション後の舞台裏と日米の音楽制作スタイルの差
■裏方もちゃんと讃えられるチャンスがあるとモチベーションは上がる
今回のグラミー賞ノミネーションを見ると、自分の専門である最優秀エンジニア賞は、やっぱり業界の大御所2人がきた感じだね。一人目のバーニー・グランドマンはノミネートの常連。今回もダブルノミネートになった。生楽器の音をマスタリングでいい音に仕上げるっていう、エンジニアリングの王道のスタイルが卓越しているよね。ちなみに彼がプロデュースしたスタジオ、その名もバーニー・グランドマン・マスタリングは日本にもあるんだ。彼はこだわりが強い人で、東京のスタジオはサイズからケーブルの木の材質に至るまで、彼の指示でロスと同じにしてあるらしい。
そして、もう一人が自分の大先輩でもあるトニー・マセラティ。昔、スタジオ勤務時代にはアシスタントをやらせてもらったりしたし、Elephunkも彼がやっている。この人はもともとアナログの機材を山のように持ち込んで作業することで有名だったけど、それこそElephunkの後からはそれをやめて、他の人に先駆けて一気にプロツールとプラグインのソフトウェア中心で作業するようになった。で、最初は思うような結果が出せなかったみたいだけど、最先端を走ってソフトウェアの可能性を試行錯誤して、一早く使いこなしていった。その経験がその後、Waves製品のプラグインのマセラティ・シリーズのプロデュースに活きたんだと思うな。
余談だけど、エンジニアリングの技術はどんどん進歩してて、今はヴォーカルのピッチとかも昔よりさらに完璧に補正するから、同じアーティストの楽曲でも昔の曲を聞くと、なんか音ずれてんな〜ってのがあるんだよね。
ノミネート後、授賞式までの間は一旦日常に戻るんだけど、ノミニーのためのパーティーがあったりする。食事や飲み物が出るちょっとしたパーティーで、そこでノミネートメダルをもらったりするんだ。アーティストはあまりこないけど、結構メディアに顔が知られていないエンジニアとか、裏方系の人達は来るね。
自分もノミネートされた時は、スタジオの友達を連れて行ったよ。やっぱり裏方もちゃんと讃えられるチャンスがあると、モチベーションは上がるよね。アーティストだけじゃなくてスタッフも評価されると、その後の作品のクオリティも上がっていく。日本の音楽業界にアメリカ式のやり方を持ち込むのは簡単じゃないと思うけど、長い目で見たらやる価値は絶対にあると思うよ。
Jun Ishizeki
2004年、エンジニアとして参加したBlack Eyed PeasのElephunkでグラミー賞Best Engineered Albumにノミネート。Black Eyed Peas、アヴァーント、カニエ・ウェスト、ジャネット・ジャクソン、安室奈美恵、倖田來未、西野カナ、Crystal Kay他、日米のビックネームなどの作品制作に参加しているエンジニア。日系2世。
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