■グラミー授賞式直前、ロスはアーティストのための街になる

ロスの雰囲気については、先日のニュースでグラミー賞の会場となるロサンゼルスのダウンタウンにあるステイプルズ・センターが、授賞式の準備に入るため、同会場をホームコートにしているNBAのロサンゼルス・レイカーズとかロサンゼルス・クリッパーズが、授賞式後まで遠征に出てしばらくアウェイの試合だけになるって言ってたよ。
いよいよグラミーが近づいているって感じだね。

授賞式の数日前になるとハリウッドのクラブとかは、そのほとんどをレコード会社が貸し切りにして、それぞれの所属アーティストがライブをしたりするパーティーをやったりするはずだよ。クライヴ・デイヴィスのパーティーなんかは有名だね。

招待制なので一般の人たちはなかなか入れないけど、グラミーに出席するアーティストや関係者は全米中、または世界中から集まるから、ロスに来たその人達のための場が用意されてるんだよね。クラブだけじゃなくて有名なスタジオも埋まってて、こちらでは普段顔を合わさないアーティスト達がセッションしたり、コラボレーションしたりして曲を作ったり、クリエイティブ活動を楽しんでいるみたいだよ。

前にも言ったけど、やっぱり受賞はFUN.じゃないかと思ってる。

去年、「We Are Young」はラジオでもホントよくかかってた印象があるね。あの曲が急に人気になって、その後、「Some Nights」もよく流れてたね。それまではいかにも打ち込みなダンスチューンが多かった全米の音楽シーンには、FUN.のバンドっぽい音が新鮮だったのかもしれない。

■FUN.の楽曲の中に感じる音楽の新しい要素

ただ面白いのは、例えば同じくノミネートされているブラック・キーズなんかはいかにも生音だけど、FUN.の楽曲は全体的にアナログっぽいけど、よく聴くとドラムとかは打ち込みの音なんだよね。
実は音色以外は結構2000年代のポップス/ヒップホップっぽいリズムやメロディなんだ。だからこれまでの音楽ファンとも親和性が高いのに、生音っぽくて新しい感じに聴こえるのが絶妙なバランスだよね。

今年度のグラミー賞最有力候補にあげられるFUN.

そして、これがプロデューサーであるジェフ・バスカーの手腕なんじゃないかな。前も話したけど彼は、カニエ・ウェストが同じヒップホップでもアナログっぽい音色に移行していった時期のプロデューサーで、アリシア・キーズの曲でも彼の得意な生音っぽい打ち込みのスタイルが光ってるよね。

あとFUN.といえば所属レーベルの『フュエルド・バイ・ラーメン（Fueled by Ramen）』も、フォール・アウト・ボーイとかパラモアとか、個人的に好きなアーティストを輩出したナイスなレーベルだね。
そのユニークなレーベル名の通り、安いインスタントラーメンばっかり食べてて、情熱はあるけど貧乏なアーティスト達が作ったレーベルだったんだ。だから大手みたいなお金回りのいいイメージは無いけど、でもちゃんと才能をインディーズで終わらせていないところが凄いよね。これからも、フュエルド・バイ・ラーメンからデビューするアーティストは要注目だね。

最近の若いアーティストと付き合ってて思うのは、パソコンとかの進化と普及で、お金がないアーティストにもやれることが増えたってこと。それまではスタジオの高い機材でしかできなかったことが、ある程度、個人のパソコンでもできるわけだしね。

そして面白いのは自分のようなプロのエンジニアじゃない人たちが、そういうデジタルツールを使う時に、ある意味今までのセオリーを無視して斬新なアプローチをしたりするんだよね。そういうのは、こちらも大いに刺激を受けるよ。

そうやって新しい音は生まれるんだろうし、まさに今回のFUN.もその音楽の中の新しい要素に皆が面白さを感じているのかもしれないね。やっぱりFUN.が何部門か受賞するんじゃないかな。当日パフォーマンスもするみたいだし、授賞式の結果が楽しみだね！

(文・吉田大致)