[ 2013.1.31 ] グラミー賞で注目部門となりつつあるエレクトロニック・ダンス・ミュージックと、アメリカで急成長する新たな潮流、EDM
■アメリカ発の最新ムーブメント“EDM”と、グラミー賞
ところが、そうこうしている内に、ダンス/クラブ・ミュージック・シーンでは、この1〜2年でこうした状況をさらに一変させる動きが起こりました。しかも、アメリカで。そしてグラミー賞は、エレクトロニック・ダンス/クラブ・ミュージック系の部門を通じて、この動向をヨーロッパに先行する形でいち早くピックアップするようになっています。“EDM”(Electronic Dance Musicの略)と呼ばれる、新たなエレクトロニック・ダンス・ミュージック・ムーブメントです。
“EDM”とは、広義には、その名のとおりエレクトロニックなダンス・ミュージック全般を指した言葉なのですが、そもそもどこで使われていた言葉かというと、アメリカです。コンピューター・ソフトや電子楽器で作られるこうした音楽は、イギリス〜ヨーロッパではハウス、テクノ、トランス、エレクトロ、ドラムンベース、ダブステップ、エレクトロニカなどなど個別のジャンル名で語られるので、これらを統括する“EDM”という言葉が、過去ヨーロッパの国々で使われることはありませんでした。つまり、“EDM”とは米語です。話がややこしくなることを覚悟してさらに説明すると、“EDM”という言葉が頻繁に使われるようになる以前、アメリカでこれらを総称する言葉は、“エレクトロニカ”でした。グラミー賞の“最優秀ダンス/エレクトロニカ・アルバム賞”の中で使われている“エレクトロニカ”とは、この意味においてです。
では、なぜ“EDM”という言葉が近年頻繁に使われるようになったのかと言うと、かつては“エレクトロニック・ダンス・ミュージック不毛の地”とまで言われたアメリカで、史上最大の“エレクトロニック・ダンス・ミュージック”のブームが現在起こっているからです。異変が起きたのは2009年、フランスのDJ/アーティスト、デヴィッド・ゲッタが、R&Bアーティストらを起用して、ヒップホップとハウスを融合させ、全米チャートに食い込むようになってからでしょう。そしてグラミー賞は、この動きにいち早く反応。デヴィッド・ゲッタは、2010年の第52回グラミー賞、2011年の第53回グラミー賞で、最優秀リミックス・レコーディング, ノンクラシカル賞を連続で受賞し、話題となりました。
さらに昨年の2012年、第54回グラミー賞では、アメリカの若きEDMアーティスト、スクリレックスが、エレクトロニック・ダンス/クラブ・ミュージック系3部門の全てで受賞を果たし、大きな話題に。自身のアーティスト名はもちろんのこと、グラミー賞におけるエレクトロニック・ダンス/クラブ・ミュージック系部門の存在感、さらには“EDM”というワードを広めるのに一役買いました。この時のグラミー賞の采配は、見事という他ありません。エレクトロニック・ダンス・ミュージック・シーンのメインストリームが、ヨーロッパからアメリカに移ったことを示す、象徴的な出来事だったのではないでしょうか。
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