『グラミー賞・映画音楽部門に集まる世界中の才能:映像と音楽の変遷』
■ハリウッド映画音楽界に大きく貢献したヨーロッパの作曲家達
ところで、フランス人であるアレクサンドル同様に、ハリウッド映画音楽の世界では、その始まりからヨーロッパの作曲家達が大きく貢献している。映画産業の黎明期と言われる20世紀の初頭、ヨーロッパ在住のクラシック/オペラ音楽の作曲家たちは、徐々に映画界へと進出を始める。第一期映画音楽黄金時代の30年代以降には、『ロビン・フッドの冒険』を手掛けたオーストリア人作曲家のヴォルフガング・コルンゴルト、『白い恐怖/Spellbound』『ベン・ハー/Ben-Hur』などで知られるハンガリー出身のミクロス・ローザを始め、ヨーロッパ出身の作曲家が数多くアメリカに上陸してくることとなった。
そして20世紀半ばになり、多くのアメリカ出身の映画音楽作曲家もそれぞれのスタイルを確立することとなる。アメリカのフォーク・ミュージックを取り入れアメリカーナ・サウンドの祖と言われたアーロン・コープランド(『北極星/The North Star』など)、Jazzを取り入れることでクラシックの管弦楽とは異なったアプローチをしたヘンリー・マンシーニ(『ピンクの豹/The Pink Panther』など)、数多くのSFやアクションやホラーを手がけ、ハリウッドの壮大なスケールのサウンドを作り上げたジェリー・ゴールドスミス(『スター・トレック』『エイリアン』など)らが、その代表的な作曲家と言える。
一方で、ヨーロッパのクラシック音楽の作曲家から影響を受けたアメリカ人作曲家もやはり多く、『スター・ウォーズ』や『スーパーマン』など数々の名作を手掛け、グラミー賞を21度も受賞したジョン・ウィリアムズもその一人だ。彼の作風には『春の祭典(Rite of Spring)』で知られるロシアのイーゴリ・ストラヴィンスキーや『惑星(The Planets)』などで知られるイギリスのグスターヴ・ホルストらの影響を見ることができる。
ハイブリッドスタイル(生オーケストラとデジタルサンプリングの融合)のダイナミックな音色で、90年代からハリウッドを席巻し続けるドイツ人作曲家のハンス・ジマー(『ライオンキング』『インセプション』など)のアクション系のスコアでは、ゲルマン系らしい荘厳なメロディーやハーモニーを聴くことができる。さらに近年は、ギターを中心としたスペイシー・サウンドが特徴で、『ブロークバック・マウンテン』『バベル』と2年連続でアカデミー賞を受賞したアルゼンチン出身のグスターボ・サンタオラヤ、東洋伝統音楽とエレクトロニックサウンドを融合させ、『スラムドッグ$ミリオネア』で知られるインド出身のA.R.ラフマーンなど、北米とヨーロッパ以外の作曲家の名前も聞こえてくるようになった。
■さらに多様化する映画音楽部門と今年の注目作品
今後もますます国際色豊かになるであろうグラミー賞の映画音楽部門の顔ぶれだが、今年のBest Score Soundtrack For Visual Mediaノミネートが発表されたので以下に記したい。
・「タンタンの冒険/ユニコーン号の秘密」ジョン・ウィリアムズ
・「アーティスト」ルドヴィック・ブールス
・「ドラゴン・タトゥーの女」トレント・レズナー&アッティカス・ロス
・「ヒューゴの不思議な発明」ハワード・ショア
・「ダークナイト ライジング」ハンス・ジマー
・「風ノ旅ビト」オースティン・ウィントリー
一足先に同作品で2011年のアカデミー賞を受賞したルドヴィック・ブールス(彼もまたフランス人)、新しいフィルムスコアのスタイルを提示して2010年のアカデミー賞を受賞したトレント・レズナー&アッティカス・ロスなど、どれも文句無しのノミネートと言えるが、ビデオゲームのスコアであるオースティン・ウィントリーの「風ノ旅ビト」がノミネートされている点には注目が集まる。次回以降、今年の映画音楽部門のノミネーションについて思いを巡らせたいと思う。
文 DAICHI YOSHIDA
■ 49th (2007)
Memoirs of a Geisha / John Williams
■ 50th (2008)
Ratatouille / Michael Giacchino
■ 51st (2009)
The Dark Knight / Hans Zimmer and James Newton Howard
■ 52nd (2010)
Up / Michael Giacchino
■ 53rd (2011)
Toy Story 3 / Randy Newman
■ 54th (2012)
The King's Speech / Alexandre Desplat
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