[ 2012.12.07 ] アメリカ音楽会へのグラミーの影響力とノミネートの思い出
■アーティストの間に生まれた“チーム感”
当然、2月にはレッドカーペットを通った。ちなみに席は喜多郎さんの後ろ。ご存知のようにグラミー賞は本当に部門数が多く、Best Engineered Albumはテレビで放送されず、昼過ぎの発表だった。他の部門と同様、「the winner is…」とアナウンスがあり、「Radiohead!」……。もちろん、あのRadioheadだからしょうがない思いもあるけど、正直、残念だった。ノミネート記念にティファニーの純金のメダルをもらったよ。
この受賞経験はエンジニアとして本当に自信になった。自分の経歴を話す時はもちろん、BEPのメンバーやその時のプロデューサーとは、このノミネートがあって改めてチーム感みたいなものが生まれて、距離がぐっと近くなった。今でも連絡を取り合うけど、そういうのがとても嬉しかったね。
実は「Elephunk」とは真逆の運命も、その翌年に経験したんだ。BEPの後にカニエ・ウェストを手掛けたんだけど、これも先輩エンジニアが再びまさかの不在。急遽、僕が担当することになり、幸いカニエにも気に入ってもらって、その後しばらく彼との仕事になった。ジャネット・ジャクソンやトゥイスタとか、彼がプロデュースしたアーティストのアルバムも含めてね。
ところが、この話にはオチがあって、カニエが「College Dropout」のクレジットに僕の名前を入れ忘れたんだ。そのアルバムは最終的に僕が全部ボーカルを録り直したし、アルバムがグラミー賞にノミネートされたのに、クレジットに入っていないから2年連続のノミネーションを逃してしまった。アルバム自体はBest Rap Album部門にノミネートされて、本来これ自体も、エンジニアにとっては大きなクレジットになるんだけど…。余談だけど、エンジニアにとってクレジットの載せ忘れは辛いんだよね。
■グラミー賞の影響力
僕らエンジニアにとってはもちろんだけど、グラミー賞の影響力はやっぱり大きい。ノミネートはもちろん、受賞したらCDも売れる。だから、アーティストたちには最も重要な賞で、グラミー賞を目標にしているアーティストも多い。ノミネートが発表されたら、業界内でも皆が話題にするし、制作からリリースまですごく時間のかかるアーティストもいるから、僕の手掛けたアルバムがノミネート対象に入っていないかも注意してチェックしている。
だから、ノミネーションの発表も盛り上がるんだ。今回がマルーン5だったように、いつも大物のライブとセットでやるから一般の人も楽しめる。レコード会社の人とかアーティストのマネージャーとか、音楽業界関係もドキドキしながらチェックしていたはずだよ。まずは今年のノミネーションライブや、ノミネートされたアーティストの作品を聞いたりして、グラミーを感じてみて欲しい。
毎年多くの音楽関係者が注目するグラミー賞。55回目を迎える今回、最高の音楽と最高のアーティストが一番輝く瞬間を目撃し、音楽という素晴らしいエンターテイメントの未来に想いを馳せる。グラミー賞は、まさに音を楽しむ最高の機会なのではないだろうか。 (文・吉田大致)
Jun Ishizeki
2004年、エンジニアとして参加したBlack Eyed PeasのElephunkでグラミー賞Best Engineered Albumにノミネート。Black Eyed Peas、アヴァーント、カニエ・ウェスト、ジャネット・ジャクソン、安室奈美恵、倖田來未、西野カナ、Crystal Kay他、日米のビックネームなどの作品制作に参加しているエンジニア。日系2世。
コラム INDEX
Photo:Getty Images
Photo:Getty Images、WireImage、FilmMagic、Getty Images for CMT
Getty Images for MTV 、Getty Images Entertainment