6月8日に開幕し、連日熱戦が繰り広げられているサッカー欧州選手権(以下ユーロ)。6月23日の準々決勝第3試合で、ディフェンディングチャンピオンでW杯王者、FIFAランク1位、優勝候補筆頭のスペインに挑むのは、タイトルから離れて久しい古豪フランス。ノックアウトステージ特有の番狂わせの可能性について、WOWOWのユーロ現地解説者である奥寺康彦氏は「ないとは言い切らないが、極めて少ないと言わざるを得ない」と言及。その根拠は?
■素早い寄せを徹底してからのカウンターが攻略法か
奥寺「やはり能力の高い選手が並ぶと、あらゆる状況からゴールに迫ることが可能になる。それを体現しているのがスペインで、観ていて楽しいのは確かだ。
イタリア戦のゼロトップが話題になっていたようだけど、バルサ中心のスタイルでやってきたチームだから特に驚きはなかった。それより個人的にはフェルナンド・トーレスが乗り切れてない、というのが気になった点かな。それでもビセンテ・デル・ボスケ監督が彼を使い続ける理由はメンタル的な部分をケアしてのこと。2戦目(vs.アイルランド)で結果(2得点)が出てF・トーレスもデル・ボスケ監督も安心しただろう。大会が進むにつれてどんどん余裕はなくなっていくからね。
ただ、F・トーレス本人には、中盤にあれだけのパサーが揃っているんだから、もう少し自分で受ける工夫が必要かもしれない。それができてよりバルサ組にフィットすれば一気に得点を量産する爆発力を秘めている。ユーロのような短期のトーナメントを制するには突然変異ともいえるスターの出現が伴うことがある。その大当たり男にもっとも近いのがF・トーレスか、マリオ・ゴメス(ドイツ)だろう。
王者スペインを優勝候補に推す声が多いのは僕も知っているし、反論はしないけれど、4年前のユーロ2年前のW杯のような圧倒的な支配は及ばなくなっている。というのは、決してスペインのサッカーが衰えたわけではなく、やはり他国が研究し、彼らのサッカーに慣れてきた部分が大きいだろう。「何としても最優先にボールに寄せる」というような、イタリアやクロアチアがやったサッカーを徹底できれば決して難攻不落ではないことが証明されつつあるね。
加えて最終ラインがバタバタしている印象が強かった。スペインは狭いエリアで細かくボールを動かしてグループで攻めていくサッカーだから、ボールを失うと中盤を飛ばして一気に早い攻撃を受けてしまう。カシージャスが救ってくれた場面も多く、他のGKだったらトーナメントの組み合わせが違ったんじゃないか、と思うくらいだ。不安がないわけではない」
■卓越した個人技でも埋まらないコミュニケーション不足、大量失点も……
奥寺「多少なりとも不安を残したスペインにとってフランスが相手だったのは幸運かもしれない。グループリーグの最終戦(vsウクライナ)がすべてを象徴しているけど、フランスはコミュニケーションが決定的に不足している。「ここにボールを送り込めば」「あそこにフリーランニングをしておけば」という場面が片手では足りないほど露見していた。
それでもリベリあたりは必死になって突破を試みている。ただ、それがさんざんこね回して最終的に1タッチ2タッチでメリハリをつけて突破するための伏線であればいいのだけど、やはり単発で終わってしまう。ナスリ、ベンゼマら能力のある選手がフロントに配置されているのだから、連動すればより危険な状況に相手を陥れることができるのに残念でならない。
逆にいうと、彼らを分断することに成功したスウェーデンのやり方がスペインは大いに参考になるはずだ。それは中盤に運動量の多い選手を並べているのでそれは容易なタスクかもしれないが。
サッカーは何が起こるか分からないゲームだけれど、このゲームに限ってはこれまでのフランスを見る限り、スペインがやられるのはちょっと想像しにくい。どっちかといえばスペインが複数点を記録して楽にゲームを決める可能性が高いんじゃないかな」
写真:AP/アフロ