■もはや優勝候補筆頭!?ドイツの見せる「安定感」
開幕前からディフェンディングチャンピオンのスペインと並び、ドイツを優勝候補に推す声が多かった。
その声は開幕後、ドイツが死のグループで9ポイントをあっさり積み立てて高まり、さらに食い下がるギリシャから4ゴールを奪って圧勝した準々決勝後は、「むしろスペインよりドイツが本命」というものに昇華されつつある。
同時に各種報道には「安定感」という言葉が散見し始めた。確かに今大会を通じてドイツは一度のリードも許していないうえ、ゲームのイニシアチブを求めて躍起になるシーンすらなかった。ギリシャ戦で先制しながらも追いつかれた直後さえ、シュヴァインシュタイガーとフンメルスが短く言葉を交わしたのみ。スペイン以下、他の3チームが多少なりとも見せたバタつきは見当たらなかった。
■攻守両面で代えの利かない存在に
その安定感をチームに呼んでいるのは「サミ・ケディラだ」と断言するのはWOWOWのユーロ現地解説者の奥寺康彦氏だ。
「守備面の貢献度が中盤の選手にしては格段に高い。4試合を通して、フンメルスとバートシュトゥーバーが慌てる場面がほとんどなかった。これはケディラ、シュヴァインシュタイガーのミッドフィールドからしっかりアプローチをかけているためだ。寄せ切れなくても最低限、攻撃されるサイドを限定してくれているからフンメルスらにとって予想外のことが起きにくい。それが安定感につながっている」
さらに奥寺氏はボールを保持した状態でも、ケディラのプレーがドイツにリズムを生んでいると指摘する。
「彼の良さはシンプルにプレーできること。チャンスメーカーではなくプレーメーカーであって、自分が黒子であることを自覚している。惜しみなく動いて汚れ仕事もこなす」
ケディラ本人もあくまで影でチームを支える選手だと自負しているようで、シュヴァインシュタイガーとのコンビについて、以下のようにコメントしている。
「互いの長所を知っているので、相手のいいところを生かすには、自分は一歩引かないといけない場面があることもわかっている」
■ケディラの飛び出しがドイツの攻撃の引き金に
その一方で「オフェンス時にもケディラは不可欠だ」とその存在の重要性を、同じくWOWOWのユーロ現地解説者の野口幸司氏は説いている。「いちばん苦しい時の大きな仕事」というギリシャ戦での勝ち越しゴールはもちろんだが、ケディラの相手にとって厄介な部分の本質は「飛び出し」にあると続け、準決勝のイタリア戦のキーマンになると語る。
「ケディラがエジルらを追い越してゴールに向かう動きはそんなに多いわけではありません。ただ、非常に効果的ではある。エジルらオフェンスの選手の追い越しは相手も当然、警戒しているんですけど、ケディラがその奥から抜いて行くことで『ケディラも来るのか』と相手は中央にしぼるわけです。そうするとギリシャ戦のようにラームらサイドの選手に余裕が生まれる。
じゃあ相手はサイドを締めに入る。そうすると今度は中央でミュラーやエジルが遊べる。そこにチェックに人と注意を割くと、またケディラがその密集を追い越してゆく。つまりケディラの飛び出しが相手の悪循環を導くわけです。逆に言うと彼のアクションと試合の動きはリンクするでしょう」
かつてミハエル・バラックの控えに過ぎなかった男は、今大会、フロントラインで唯一すべての時間ピッチに立ち、チーム最高の走行距離と4試合を通して90%近いパス成功率を誇り、ドイツに96年大会以来、16年ぶりのビッグタイトルをもたらそうとしている。
さらにイタリアとの準決勝では相棒のシュヴァインシュタイガーの足首の状態が思わしくないとの報道もされている。
黒子から主役へ。サミ・ケディラが今大会の中心になる可能性は高い。
写真:ロイター/アフロ