[ 2013.2.6 ] グラミー映画音楽ノミネート作品は近年のフィルムスコアの多様化の縮図
■The Dark Knight Rises(邦題:ダークナイト ライジング)
同シリーズの前作がグラミーを受賞した「ダークナイト」シリーズ最終作である。「ダークナイト」「インセプション」「ザ・ロック」など、Hansの作るアクションスコアは、デジタルサンプリング&加工された音を生オーケストラの音と混ぜることにより、それ以前の王道の映画音楽では聞くことの無かった高い音圧や超低域などを持たせている。まさに革命的なサウンドであり、“21世紀の音”と捉えられた。
実際、近年においては、映画監督が作曲家と作業する際にサンプルとして提示する音楽、通称テンプ・トラックとしても、とくにハードなアクションシーンにおいてはHansの楽曲はよく用いられる。
■The Girl With The Dragon Tattoo(邦題:ドラゴン・タトゥーの女)
「ソーシャル・ネットワーク」のスコアでアカデミー賞を受賞したTrent Reznor & Atticus Rossの最新スコアである。この二人のスタイルは、シンセサイザーやデジタルサンプリングを中心に楽曲を構築するのであるが、今作品でも雪に閉ざされた街で起こる事件のミステリアスで閉塞的な雰囲気を、効果音やノイズに近いシンセサイザーの音で表現している。オーケストラ中心のこれまでの他の作曲家達のスコアに照らし合わせると、さらに新しい時代の到来を予感させる。
さらにもう一点ユニークなのが、本作品の作曲のプロセスである。通常の映画では映像が先にできて、それに合わせて音楽をシンクロするように作曲するが、この二人は今作品において映像無しで音楽を先に作ったそうだ。そのため音楽が映像にかかわらず、そこに存在しているように、ある意味平坦に聞こえる。それが監督の意図したところだと思われるが、音楽が作品に独特の不思議さを加えている。
■Journey(邦題:風ノ旅ビト)
そしてもう一つの新しい風として、Austin Wintoryの手掛けたJourneyがある。これはビデオゲームのスコアだ。全米では数年前にビデオゲームの市場規模が映画のそれを抜いたことでニュースになったが、近年のゲームは制作費が非常に大きく、音楽の制作も映画と遜色ないレベルになっている。
作曲家のAustin WintoryとJourneyの制作会社であるthatgamecompanyの社長が実際に同ゲームを最初から最後までプレイしながら話をするのを聞く機会があった。プレイヤーの自由な動きに音楽が非常に自然にシンクロし、ストーリーの展開に合わせ、まるで映画のように音楽が効果的に使われていたのが印象的だった。彼らによると同ゲームの1つテーマが、特定の文化背景を感じさせない世界観を達成するということで、その為に音楽にも用いる楽器や旋律がどこかの文化圏に偏りすぎないように注意を払ったということだった。実際西洋のオーケストラの楽器、東洋の民族楽器、シンセサイザー、それらを混ぜ合わせ、まさにゲームの中に別世界が存在しているようなサウンドである。
またもう一つのテーマである、誕生から死、そして再生というテーマも音楽的に感動的に表現されていた。ビデオゲームではゲームの進行に応じて音楽もシームレスに変化するようにプログラムするために、作曲時点で独特の条件がある。同じ音楽が流れ続けてもそのループ感を感じさせないようにしたり、とある条件で音楽が変化する際に、重なり合う音楽のレイヤーが破綻しないように作曲しなければならないことを考えると、非常に高度に計算もされて作曲されていると言えるだろう。
今年のグラミー賞の映画音楽部門のノミネートは古今東西の様々なスタイルが用いられている素晴らしい作品ばかりで、どれが受賞してもおかしくないだろう。個人的にも受賞結果が多いに楽しみである。
文 DAICHI YOSHIDA
第85回アカデミー賞授賞式
2月25日(月)午前9:00より
WOWOWプライムで生中継!
今年のノミネート作品
『タンタンの冒険/ユニコーン号の秘密』
ジョン・ウィリアムズ
『アーティスト』
ルドヴィック・ブールス
『ドラゴン・タトゥーの女』
トレント・レズナー&アッティカス・ロス
『ヒューゴの不思議な発明』
ハワード・ショア
『ダークナイト ライジング』
ハンス・ジマー
『風ノ旅ビト』
オースティン・ウィントリー
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