[ 2013.1.29 ] 最近のグラミー賞について思うこと feat.フランク・オーシャン
■ゲイ差別が激しいブラック・ミュージックの世界で
以下は、フランク・オーシャン自身が発表したカミングアウト文章の抜粋である。
「4年前の夏、ある人に出会った。僕は19歳だった。彼も19歳だった。次の年の夏まで、僕たちは一緒にいた。1日のほとんどのあいだ、僕は彼のことを、彼の笑顔を見ていた。彼の話を、沈黙を聴いていた……眠る時間まで。よく彼と一緒に眠った。僕の初恋だった。この恋が、僕の人生を変えた」「彼は、僕と同じ気持ちであることは認めなかった。僕は、彼との変わった友情を保つことにした。彼のいない人生なんて想像もできなかったから。自分自身を、自分の感情を押し殺した」「僕の初恋の人へ、君に感謝している。君を忘れない。あの夏を忘れない。君に会ったときのかつての自分を、僕はずっと覚えているだろう」
おお、なんとスウィートな純愛同性交遊!
ここまで突っ走ってきたが、ご存じない方たちのためにハッキリと書いておこう。アメリカ黒人社会、およびヒップホップ/R&Bの世界は、非常〜にホモフォビック(同性愛差別)なのである。そこで理想とされるのは、古典的な男らしさ(マッチズモ)。「ゲイなんて、もってのほか」なのだ。
そもそもがホモフォビックであるアメリカで、その中でも特にゲイ差別が激しいブラック・ミュージックの世界。将来を嘱託され、ソロ・デビュー・アルバムを発表せんとする黒人青年が、こんな告白をするなんて。ちょっと前までは予想もできなかった快挙なのだよ。
しかもフランク・オーシャンの場合、事情はやや特殊である。確かに自身はR&Bシンガーではあるが、属しているクルー/グループであるオッド・フューチャー・ウルフ・ギャング・キル・ゼム・オール(長いよ。なので略して「オッド・フューチャー」)はヒップホップ系。なので、立脚点としてはR&Bよりもヒップホップ寄りなのだ。つまり、さらにマッチズモ&差別的で、異質さを忌み嫌うフィールド。かつてであれば――これは書きたくないが――エンガチョ、村八分、鼻つまみ者となること必至。社会でも、業界でも、グループ内でも。
しかし! フランク・オーシャンのカミングアウトを耳にしたタイラー・ザ・クリエイター(オッド・フューチャーのリーダー)は、「やっと認めたか、ワッハッハ」というノリのいいツイートで援護射撃。このグループには他に、レズビアンであるシド・ザ・キッドというメンバーもいて、要するにそもそも多文化的な集団なのだな。このシド嬢はアリシア・キーズに対して「カミングアウトしてほしい」という勝手な声明を出している強者。「子持ちの既婚(略奪婚)女性をつかまえて、何を言ってるんだ」とは思うが、これも愛嬌として受け止めたい。
オバマ大統領の同性婚容認発言に応じて(ノセられて?)、ジェイ・Zや50セントといった――分別こそありそうだが――かつてなら間違いなく反対派となったであろう、ストリートのドラッグディーラー上がりのラッパーたちが、つい同性婚に賛意を示すこの時代。
我々は時代の変わり目を体験しようとしているのだと思う。フランク・オーシャンの最多ノミネートも、その一端。そんな彼の八面六臂の活躍が期待されるグラミー、ぜひ目撃しておきたい。
文:丸屋九兵衛(bmr)
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