魅力的な舞台人 インタビュー / 舞台レポート
魅力的な舞台人のインタビューや、話題のステージのレポートをお届けします。
2010/11/4(木)
市川亀治郎さんインタビュー
5歳の年に初舞台を踏んだ歌舞伎では、若手女形の実力派としてトップ集団をひた走る。しなやかで美しい動きと緻密な人物造形で、新旧の歌舞伎ファンから高い支持を得ている。
自称・トピックのない子供時代
「ドキュメントとしては、まったくおもしろみのない子供時代ですよ。これといった話がありませんから。学校に行って芝居をして、という繰り返しです」
手短に幼少期を振り返るが、裏を返せば、歌舞伎をすること、演じることが、食事や睡眠と同じように、生活の中にごく自然にあった証だ。
「(なぜ舞台に立つのかと自分に聞くのは)鳥に“なぜ飛ぶのか?”と聞くのと同じですよ。使命感みたいなものもどこかにあるのかもしれないけど、それは“歌舞伎を伝える”でもあり“家族を養う”ことでもありますしね」
どんな作品でも、気持ちの垣根はない
垣根のなさは、歌舞伎とそれ以外の演劇を行き来する姿勢にもつながる。三谷幸喜が作・演出したパルコ歌舞伎『決闘! 高田馬場』(06年)、大河ドラマ『風林火山』(07年)、注目の才能である前川知大が作・演出した現代劇『狭き門より入れ』(09年)など、近年は振り幅の広い作品に意欲的に参加。それぞれに圧倒的な存在感を残してきた。
「作品によって言葉使いや衣装が違う、ということはありますけど、それは当たり前のこと。それを抜きに考えれば、気持ちの上での垣根はまったくありません。(特別な意味が生まれるとしても)人生なんでも、後から良いように位置付く。その時はただ一生懸命にやってるだけなんです」
シェイクスピア劇の言葉と歌舞伎の身体
シェイクスピアの『十二夜』を歌舞伎に翻案した『NINAGAWA十二夜』で3年前に蜷川演出を受けたが、『じゃじゃ馬ならし』は、完全にシェイクスピアの世界の住人に。しかもこれは蜷川のライフワークのひとつで、登場人物全員を男優が演じるオールメールシリーズ。亀治郎は主人公の女性キャタリーナを演じ、いわば翻訳劇の女形に挑戦する。
「歌舞伎の身体性をそのまま持っていくつもりです。すり合わせはしますけど、翻訳劇用に変換はしません。合わせられないし、今回はいろんな畑の人が集まる楽しさがあると思うので」
稽古場では、長いせりふを丁寧に扱う蜷川、その姿勢に共感する亀治郎の姿が印象的だった。
「歌舞伎にしてもシェイクスピアにしても、言葉を大切にすることは大前提。それが新鮮に映るのが現代で、いかに我々がギャグに流されてしまっているかですよね。といって言葉が立ち過ぎれば芝居が硬くなる。特にシェイクスピアは、1行で済む話を修飾語や形容詞で10行にしている。どんな人でも全部を聴き取って理解するの無理で、どこを聞いてもらうかを考えています」
緻密な役づくりは、翻訳劇でも面目躍如だ。