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大会展望

シーズン最後のグランドスラム チャンピオンの座は次代の王者の証明書か…!?

ラファエル・ナダル/キム・クライシュテルス

ラファエル・ナダル Photo:アフロ
キム・クライシュテルス Photo:ロイター/アフロ

 2万3000人も収容する世界最大の“アーサー・アッシュ・スタジアム”。そこにはプロスポーツ大国アメリカらしく“観る力”に満ちたファンがいて、プレーヤーのダイナミックなプレーを引き出す。ニューヨークを舞台としたシーズン最後のエキサイティング・グランドスラム、全米オープンは本当にスケールが大きく、とにかく熱い。

 最大の注目は現世界ランクNo.1のラファエル・ナダルが生涯グランドスラムを達成できるかどうか。これまでシーズン終盤の息切れが指摘されてきたように、今季もクレーシーズンからウィンブルドンまでの飛ばしっぷりを思い返すと多少不安だが、故障などによる一時の不調から復活した“王者”ナダルの新たな挑戦は見ものだ。ちなみに、生涯グランドスラム達成となれば史上7人目。

 対抗はロジャー・フェデラー… というのが言い慣れた展望だが、今回はなかなかそうもいかない。前世界ランク1位のフェデラーにとって危険な相手のリストは今や片手では足りないほどで、7年連続決勝進出への道は険しい。前哨戦のトロントでは決勝でアンディ・マレーに敗れ、半年ぶりのタイトル獲得ならず。勝ったマレーは、今シーズンで複数回敗れた相手がナダルだけであり、今回の全米でも有力な優勝候補に挙げられるだろう。

 そのマレーが準優勝した08年も含め、過去3年の決勝戦はフェデラー対“若手有望株”というカードだった。07年はノバク・ジョコビッチが準優勝、昨年はフアン マルティン・デル ポトロが新チャンピオンに。いずれも21歳以下で、それが初めてのグランドスラム決勝という共通点もある。デルポトロのみならず、00年のマラト・サフィン、01年のレイトン・ヒューイットも20歳で初のグランドスラム・タイトルをここで手にしている。冒頭に記述したような全米独特のムードが、若い潜在能力を引き出すのかもしれない。

 そういう視点から多少の無謀は承知で予想するなら、全豪ベスト4の21歳マリン・チリッチや、今季ツアー4勝を挙げているアメリカの22歳サム・クエリーあたりに芽がありそうだが。もちろん、ジョコビッチやアンディ・ロディックなどのグランドスラム・タイトルホルダーのほか、トマーシュ・ベルディヒ、ロビン・ソダーリング、ジョーウィルフライ・ツォンガなどのグランドスラム・ファイナリストたちも忘れてはならない。さらに、今年のウィンブルドンで11時間5分のマラソンマッチを制し一躍脚光を浴びたジョン・イズナーの登場も興味深い。また、故障による4カ月のブランク明けからワシントンで復活Vを飾った元世界ランク3位のダビド・ナルバンディアン――。

錦織圭/伊達公子

錦織圭 Photo:CameraSport/アフロ
伊達公子 Photo:Mike Powell/アフロ

 注目選手の列挙は尽きないが、日本のファンにとって当然気になるのは錦織圭。しかし、106位のプロテクトランキングを持っていても現時点でダイレクトインできる確証はなく、今のところ予選からの出場となる見込みだ。08年に弱冠18歳で4回戦進出を果たした全米の舞台だけに、なんとしても本戦入りしてまたあの興奮を蘇らせてくれないだろうか…。

 一方、新興勢力が期待はずれの女子では、女王経験者たちが中心となってチャンピオン争いを繰り広げてきたが、ここにきてセレナ・ウイリアムズは足に裂傷を負い欠場を表明、姉のビーナスも左ひざの故障などトップ勢に“ガタ”がきている。また、3年ぶりの出場で注目された元女王ジュスティーヌ・エナンもウィンブルドンで痛めたひじの回復が思わしくないことから休養宣言。こうした状況で少しは若手にもチャンスが巡ってきたか。

 昨年準優勝のカロライン・ウォズニアッキが最も安定しているが、今回はスタンフォードで今季初優勝したビクトリア・アザレンカを期待の若手の筆頭に挙げたい。激しい気性が災いするのかプレーにムラが目立つ選手だったが、その手の性格もうまくプラスに転換させれば大きく化ける可能性が高い。また、ウイリアムズ姉妹のコンディションが不安な中、地元ファンの期待を背負うのは18歳のメラニー・ウダン。昨年のウィンブルドン4回戦進出で注目を浴び、全米では初のベスト8で期待に応えた。

 なお、ディフェンディング・チャンピオンのキム・クライシュテルスは前哨戦のシンシナティで優勝するなど連覇へ向けて好調だ。その決勝で接戦を演じたマリア・シャラポワにも4年ぶりの全米優勝の光が射したが、その後左かかとのケガでモントリオールを欠場しており、上位争いに絡むことができるかどうかはその容態次第だろう。

 今季不調のスベトラーナ・クズネツォワも過去のチャンピオンのひとりだが、サンディエゴで得た今季初タイトルをきっかけに意地を見せられるか。意地といえば元女王のエレナ・ヤンコビッチにとっては何がなんでも欲しいメジャータイトルだし、グランドスラム準優勝2回とベスト4が7回という実績を持ちながら優勝経験はないエレナ・デメンティエワも、このままでは終われない。

 日本勢女子の本戦確定はクルム伊達公子と森田あゆみの2人だけだが、全仏とウィンブルドンで続けて予選を突破した奈良くるみなど本戦入りが期待される選手は他にもいる。勢いのある中国や台湾の選手に負けず、できる限り多くの日本人で本戦ドローを賑わせてほしい。

文・山口 奈緒美(やまぐち・なおみ)

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