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毎回番組では沿線を入念に調査し、テーマにそった取材を心がけている。しかしどんなに事前調査をしても、運に任せるしかないのが乗客との出会いである。毎回その国ならではの出会いを求め撮影に挑むが、乗客がまるで乗っていなかったり取材拒否にあったり、必ずしもうまくいかないこともある。今回は世界遺産サン・イグナシオ・ミニ遺跡を取材するにあたり、この国に息づく信仰をグラン・カピタンの乗客から感じ取りたいと考えていた。そこで出会ったのが、マルケスさんとラモンさんご家族であった。マルケスさんは沿線コリエンテの住人で、座席に60cm以上あろうかというマリア像を置いていた。列車や車での移動時は、お守りとして必ずこのマリア像を携えるのだという。日本でいうと、大きめの観音像を小脇に抱え出勤している感じであろうか? ブエノスアイレスから乗車したラモンさんたちは、3家族17人の大グループ。兄のホセさんがポサーダスで晴れて神父になり、その儀式に参列するのだという。儀式の取材を申し込むと快くOKしてくれた。 |
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ポサーダスに到着した翌日の夜7時、ずうずうしくも約束の会場へと向かった。20〜30人程度の慎ましい式をイメージしていたのだが、なんと500人以上は集まっている盛大な儀式であった。親族だけでなく地元の多くの人々が参列しているのだ。彼らにとって信仰にすべてを捧げる神父は、町一番の相談相手であり心の拠り所なのだそう。兄の誇らしい姿を見て、弟のラモンさんや家族みんなが涙を浮かべて喜んでいる。その様子に嘘偽りない信仰を心から感じてしまい、思わずウルウルしてしまうナイーブなダメディレクターがそこにいた。信仰心のかけらもない不届き者ディレクターに、こんな偶然の出会いをくれて「テレビの神様ありがとう」と心で叫ぶ、ポサーダス取材であった。 |
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今回のアルゼンチン撮影、文章では書けない「それは無いぜセニュール!セニョリータ」な出来事が毎日のように続いた。しかしながら、この国の魅力は実に多彩である。ブエノスアイレスではタンゴのリズムに魅了され、大草原の牧場ではガウチョたちの手厚いもてなしを受け、世界遺産イグアスの滝はその絶景でスタッフ皆を絶叫させた。そして車内では、名物のマテ茶を飲んでみて!と差し出されたり、手作りの牛カツレツをどうぞ!といただいたり、優しい人々との出会いも多かった。いろいろな意味で思い出深い国である。 |
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3月10日(現地3月9日)、我々の取材したマル・デル・プラタ行きの列車が不慮の事故に遭ってしまった。ふと取材で出会った人々の顔が思い浮かぶ。事故で亡くなった方々の冥福をお祈りするとともに、負傷された方々の一日も早い回復を心から願うばかりである。 |