かつては“エレクトロニック・ダンス・ミュージック不毛の地”とまで言われたアメリカで巻き起こる、史上最大の“エレクトロニック・ダンス・ミュージック”ブーム。その背景にあるグラミー賞の存在を、クラブ/ダンス・ミュージックの情報を中心とした最大級の音楽ウェブマガジン“iLOUD”編集長の谷上史憲が明かす。
[ 2013.1.31 ] グラミー賞で注目部門となりつつあるエレクトロニック・ダンス・ミュージックと、アメリカで急成長する新たな潮流、EDM
■グラミー賞におけるクラブ・ミュージック
花形である主要4部門(最優秀レコード賞、最優秀アルバム賞、最優秀楽曲賞、最優秀新人賞)の他にも、多種多様な部門が存在し、いわゆるマイナー・ジャンルと呼ばれるような音楽や、アンダーグラウンドなジャンルの音楽もピックアップ・評価をしてきたグラミー賞。ここでは、そういった部門の中でも近年特に目が離せなくなってきているエレクトロニック・ダンス/クラブ・ミュージック系のジャンルを扱う3部門、最優秀ダンス・レコーディング賞(Best Dance Recording)、最優秀ダンス/エレクトロニカ・アルバム賞(Best Dance/Electronica Album:2011年度までは最優秀エレクトロニック/ダンス・アルバム賞)、最優秀リミックス・レコーディング, ノンクラシカル賞(Best Remixed Recording, Non-Classical)と、これらの部門が近年なぜ見逃せないものに変貌してきているのかについて、ご紹介しましょう。
もともとグラミー賞は、ハウス〜テクノ・ミュージックを中心とした、エレクトロニックなダンス/クラブ系ジャンルについて、決してタイムリーに対応したわけではなく、最優秀ダンス・レコーディング賞と最優秀リミックス・レコーディング, ノンクラシカル賞が創設されたのは1998年の第40回グラミー賞からで、最優秀ダンス/エレクトロニカ・アルバム賞(旧、最優秀エレクトロニック/ダンス・アルバム賞)が創設されたのは2005年の第47回グラミー賞でのこと。イギリス〜ヨーロッパでは1980年代後半に一大ムーブメントとして急成長を遂げ、1990年代の一時期には、音楽シーンにおける一大勢力としてロックやポップをしのぐほどの人気を誇っていた状況を考えると、当時、かなりのタイムラグが生じていたという印象は否めないでしょう。しかも、本来ハウス・ミュージックはシカゴ〜デトロイトやニューヨークで誕生したにも関わらず、です。
そんなわけで、新設されたこれらのエレクトロニック・ダンス/クラブ・ミュージック系部門では、しばらくの間、時代を遡って、ハウス〜テクノ・ミュージックの発展に寄与したアーティストを再評価するという意志を示した受賞と、これらのジャンルに影響を受けたポップ・ミュージック/アーティストの受賞が続きます。
しかし、最優秀ダンス/エレクトロニカ・アルバム賞(旧、最優秀エレクトロニック/ダンス・アルバム賞)が創設された2005年以降は、ダンス/クラブ・ミュージック先進地域であるヨーロッパの動きも、よりダイレクトにノミネート楽曲/アーティストに反映されるようになり、ケミカル・ブラザーズ、ダフト・パンク、ベースメント・ジャックス、ジャスティス、ジャック・ル・コントといった、ダンス/クラブ・ミュージック系のファンならお馴染みの人気アーティスト達が、グラミー賞で次々と受賞を果たすようになります。一般的に、エレクトロニック・ダンス/クラブ・ミュージック・シーンの中でグラミー賞への関心が高まってきたのはこの頃から、と言っても間違いではないでしょう。
ただし、エレクトロニック・ダンス/クラブ・ミュージック系部門に関する上記の流れ、変遷は、こういったジャンルの音楽やサウンドが、アメリカ本国では必ずしもポップ・ミュージック・シーンのメインストリームではなかったということが関係している、そのことも忘れてはならないと思います。なにせこの時期のアメリカは、ヒップホップ〜R&Bやオルタナティヴ・ロックの時代だったわけですから。
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