震災から5年。今も東北地方に通い続ける歌手・大島花子。11歳で父・坂本九を失った彼女の歌声は哀しみを抱え続ける被災者の支えとなっている。大島と被災地の物語を追う
2015年秋、福島県新地町。この町の保育園で、歌手・大島花子によるささやかなライブが開かれていた。檀上には、大島とギタリストの2人だけ。披露するのは大島のオリジナル曲に加え、父・坂本九が歌った名曲。優しく心に寄り添うような大島の歌声に包まれ、観客たちは自然と涙を流す。大島が被災者へ語り掛けるのが「哀しみは癒えないし、無理に克服する必要はない」というメッセージ。父の名曲「上を向いて歩こう」や「見上げてごらん夜の星を」も、励ましの曲というよりは、哀しみを抱える者に寄り添うための曲だと語る。幼くして父を失った大島の歌声は、同じく家族や故郷を失った喪失感を拭えない被災者たちの共感を呼んでいる。
大島が地道に続けてきた東北各地でのライブは、5年間で20回を超える。被災地での出会いと絆は大島にとっても大きな喜びだ。2015年冬、大島はこの出会いを通じ、新たな楽曲の作詞に取り掛かっていた。