昭和初期に活躍し、前人未到の47連勝を記録した伝説のボクサー、ピストン堀口。太平洋戦争により世界王座を獲得する機会に恵まれなかった男のボクシング人生を追う。
1933年、日本ボクシング史に残るイベント、日仏対抗拳闘大会が開かれる。登場したのはその年デビューしたばかりの無名の新人、堀口恒男。彼は元世界王者を相手に果敢に闘い超満員の観客は熱狂する。外国人の強豪と対等に戦う姿は、満州事変で中国に進出した日本人の琴線にふれるものがあり、堀口は瞬く間に国民的ヒーローに。機関車のような猛進型のファイトスタイルでいつしか彼は「ピストン堀口」と呼ばれるようになる。2014年、堀口自身の日記と当時の試合プログラムが発見された。その内容は日中戦争時、堀口が中国で試合をしたというものだ。打たれても下がらない捨て身の戦法は日本軍が理想とする戦い方で、軍は兵士の士気高揚のため、堀口の慰問試合を積極的に組んでいく。だが、この戦法には肉体的リスクが大きく、堀口の健康はむしばまれていた。そして戦後、負け試合が増えながらも試合を続けた堀口にはある想いがあった。