演出家・蜷川幸雄が挑んだ舞台「トロイアの女たち」。日本、ユダヤ、アラブの3民族・3言語で演じられるギリシャ悲劇から演劇の可能性を探ろうとした蜷川の姿を記録した。
世界的演出家・蜷川幸雄が3年がかりで挑んだ、日本・イスラエル共同制作となる舞台「トロイアの女たち」。日本人、イスラエル国籍のユダヤ系、アラブ系のキャストが出演し、3民族3言語で演じるという前代未聞の大作で、2012年末から東京とイスラエルで上演された。“世界のニナガワ”はこのギリシャ悲劇をどのように演出し、何を伝えようとしたのか?さまざまな葛藤を乗り越え、演劇の可能性を探る蜷川の姿を追った。
蜷川幸雄が、日本、ユダヤ、アラブという3つの民族と言語で挑んだ舞台「トロイアの女たち」。ギリシャ軍との戦争に敗北し、奴隷となる運命を嘆くトロイアの女たちを描いた作品。このギリシャ悲劇を、蜷川は敢えて、パレスチナ問題を抱えるイスラエルと共同制作することを選んだ。俳優のオーディションのためイスラエルを訪れ「嘆きの壁」などを見た蜷川は、“希望を見出さない限り、悲劇をやる意味はない”という想いを抱く。
2010年秋のプロジェクト開始時こそ問題が頻出したが、次第に蜷川と俳優たちは、言葉を超えて伝えられることに共感していく。稽古が始まってからも緊張が高まるパレスチナ情勢。それでも俳優たちは力を合わせて一つの舞台を作り上げることに希望があると確信していった。政治情勢によっては公演中止も危惧される2012年12月、東京公演初日の幕が上がろうとしていた…。