昨夜遅く、新聞各社に送られてきた新たな犯行声明文。
記者仲間からメールで送ってもらうと、差出人は松永昭一郎とある。
三枝総理別荘爆破は彼の犯行であり、同士たる人民と革命の嵐を吹かせると予告。
松永は、「伝説のテロリスト」と呼ばれる政治犯で、最近、15年の懲役刑を終え、出所したばかり。その声明文が関係しているのか、街で若者たちと警察の小競り合いがあった。パソコンで中継画像を見ると、一人の高校生ぐらいの女の子が、嬉々と声を張り上げている。その姿はまるで15世紀に現れたフランスの甲冑の救世主、ジャンヌ=ダルク――。幼気ない容姿、それに反する鋭い目つき……忘れられそうにない印象的な子だった。
アメリカの医学会の動向に詳しい友人から連絡が入る。
鈴木教授が研究に関して、日本から部下に何か連絡を入れたらしい。彼らの中には、教授の今後を憂える者もいると言う。
その具体的内容は決して漏れてこないそうだが、注目すべき情報だ。
鈴木教授が日本で、新しい治療法を誰かに施したことは十分想定出来る。その結果、何か不測の事態が起こってしまったのではないだろうか?彼を追い続けている太刀川記者は、きっと何か察知しているに違いない。私は教授の動きの裏に、どうしても湯田官房長官夫妻の存在を感じてしまう。太刀川記者の意見を、是非聞いてみたい。
官邸前で取材していると、とんでもないニュースが入ってくる。三枝総理の持病が悪化し、療養することになったのだ。「健康だけが私の取り柄」という記事を読んだことがあったが、あれは嘘だったのか。
政治家として順風満帆だった総理の無念は、計り知れないものがある。次期国会まで、湯田官房長官が総理代行に就任。
最大の嵐の中にいる日本の舵取りをすると、彼が夜中の会見で述べた。人々を魅了する演説を重ねていた官房長官が、いよいよ国政の中心に!長い目で日本の未来を眺めた時、これは喜ぶべきなのか、疑問視すべきなのか、複雑ではあるが…。
日本をこよなく愛していると言う彼が、どんな政治手腕を示してくれるのだろうか?