世界的に著名なドキュメンタリー映画監督の原一男。映画『ゆきゆきて、神軍』などで、戦後日本を問い続けてきた彼が2015年に70歳を迎え、発表する新作に迫る。
映画監督・原一男が約20年ぶりに手掛ける新作ドキュメンタリーの主人公に選んだのは、大阪・泉南地域のアスベスト災禍に苦しむ人々だった。『ゆきゆきて、神軍』や『全身小説家』など、今まで“表現者”の生きざまを描いてきた原にとって、市井の人を主人公にするのは初の試み。それは“生活者は撮らない”という自らの誓いを覆してまでの挑戦だったが、約8年も密着しながら納得できるシーンが撮れないと語る。それは“表現者=スーパーヒーロー”不在による物足りなさだった。従来の原作品は、撮る側も撮られる側も命懸け。だが、一般の市民にそこまでの覚悟はない。撮影は原の期待するように進まず、だが一向に解決策すら見えない。それにも関わらず、敬愛するジャーナリスト田原総一朗への取材など、複数の企画を同時進行で進めていく。原が映画を完成しないのは意図的なのか?その理由を探るうちに、彼の意外な胸中が明らかになる。