「いりびと Inside Talk LIVE」
イベントレポート
制作秘話から、撮影論、演技論まで。
バラエティ豊かなライター陣が、
「いりびと-異邦人-」鑑賞に“あらたな視点”を加えるリレーコラム。
最終回は、2021年12月27日(月)に実施したイベント
「いりびと Inside Talk LIVE」のレポートをライター石井隼人氏からお届けします。
原田マハ原作&高畑充希主演の『連続ドラマW いりびと-異邦人-』の制作秘話をスタッフが語る『いりびと Inside Talk』。去る2021年12月27日(月)に、『いりびと Inside Talk LIVE』と題したファン来場型のトークイベントをWOWOW本社にて実施いたしました!
制作陣を代表して参加したのは、メガフォンを取った萩原健太郎監督、企画プロデュースの武田吉孝プロデューサーと植田春菜プロデューサーという、制作の舞台裏や本ドラマの魅力を隅々まで知り尽くした三人。来場イベントならではのQ&Aコーナーが設けられるなど、制作陣とドラマファンの交流が活発に行われた思い出深い時間となった。
『いりびと-異邦人-』をこよなく愛する少数精鋭のドラマファンが来場。そして、武田プロデューサーと植田プロデューサーから招かれる形で萩原監督がテーブルに着席し、『いりびと Inside Talk LIVE』が開始。
来場されたファンの皆様からドラマの感想を聞くコーナーでは、「映像も音楽も印象的」というものから、京都の地形に詳しいファンからの「移動時間に物理的な無理がある!」というツッコミが挙がるなど、ドラマをすべて鑑賞した後だからこそのディープな意見が。武田プロデューサーが「京都の地理をご存知の方にはバレバレか~!」とタジタジになり、場内爆笑という“オフ会”雰囲気が冒頭から生まれていた。
オール京都ロケ作品と言っても過言ではない本作。美しい映像も見所の一つで「京都を訪れたのは小学校以来」という萩原監督は「撮影開始の一ヶ月半前から京都に滞在し、僕自身“いりびと”状態になりながら、観光地ではない日常的な場所を中心にロケハンしました。原田マハさんからの『監督が見た京都を描いてほしい』という言葉に救われました」と原作者のアドバイスを胸に、リアルな京都を探し求めたという。これについて、原作者・原田氏から、「新鮮な目で京都を捉える監督に撮ってもらえるのは適任」というお言葉もいただけたとのこと。
物語を彩る音楽を手掛けたのは、ドイツの音楽制作会社Audioforce。この提案は、自身の映画監督作でAudioforceと組んだことのある萩原監督からのものだったそうだが、両プロデューサーは当初「外国!?こりゃ大変だ!」と大慌て。その狙いについて萩原監督は「京都というと、どうしても“古風”なイメージが付きまとう。新しい京都の見え方を打ち出すにはどうするべきか?ならば京都を一度も訪れたことのないドイツ人たちに“外から見た京都”のイメージで音を作ってもらったら面白いはずだと考えた」と解説した。
ドラマを観ればわかる通り、萩原監督のアイデアは吉と出た。しかし驚くべきは、Audioforceがドラマの大まかな内容やトーンのみの情報だけで音楽を生み出していたということ。植田プロデューサーは「それにも関わらず、ピッタリな音楽を作ったことに驚いた。言葉がわからなくても画に力があれば伝わると実感した」と作品の持つ力強さが言葉の壁を越えたと自信を得ていた。
一方、武田プロデューサーが撮影舞台裏の「ここだけの話!」として明かしたのは、志村照山(松重豊)が白根樹(SUMIRE)の首を締める緊迫シーンについて。
抵抗した樹によって、照山の顔は絵の具で真っ赤になるこのシーン。顔はもちろんのこと髪の毛や衣服も汚れることから、俳優および制作側としては一発本番&一発OKでいきたいところ。ところが監督は平然と「もうワンテイク」と放ったという。プロデューサーとしてはハラハラする場面。「ファーストテイクの芝居は完璧でした。しかし顔に絵の具が付着し過ぎた。迷いもありましたが、ここでOKを出したらダメだと思った。その後の二テイク目が更に素晴らしかったので、結果的に良かったです」とコメントしたのは萩原監督。武田プロデューサー曰く「松重さんのお芝居もそこから一段とスイッチが入った気がする」というように、ここでしか聞けない話も飛び出していた。
イベント後半では、来場者とテーブルを囲む形でざっくばらんなQ&Aタイムを実施。高畑充希のキャスティングについて聞かれた武田プロデューサーは「原作小説を“当て読み”するくらいの第一候補」としながら、「出演打診の際に高畑さん本人から『WOWOWドラマは攻めて欲しい』と言われた瞬間、そのはっきりした意思表示に『篁菜穂や!』と確信した」と決定前からはまり役の予兆があったそう。植田プロデューサーも「その話を聞いて、私も“高畑さん以外ない!”と思った」と太鼓判を押していた。
篁菜穂(高畑)の夫で、どこか影のある篁一輝を演じた風間俊介については「たたき上げの人で真っ当な感覚の常識人でありながら、時々ぶっ飛んだことを言うのが面白い。まさに我々がイメージした一輝という印象」(武田プロデューサー)、「笑顔でそんなことを言う?と驚かされることもある」(萩原監督)と個性を賞嘆。また連ドラデビュー作『悪の波動 殺人分析班スピンオフ』(2019)以来の起用となるSUMIREについては「この二年での女優としての成長ぶりに感動。凄まじい存在感を放っている」(植田プロデューサー)と絶賛。萩原監督をはじめ三者三様に「スムーズなキャスティング。すべてがイメージ通りだった」と配役に納得の表情だった。
劇中で篁菜穂が感銘を受ける日本画を制作したのは、気鋭の女性画家・青木香保里氏。起用理由について聞かれた萩原監督は「青木さんはクラゲや柔らかいものを描くのを得意とされる方で、固いものを描くのは苦手だとおっしゃっていました。そこにあえてチャレンジしてもらうことで新しい日本画、ひいては今まで見たことのない青木先生の作風になると思った」と“新しさ”を強調。ちなみに青木氏が描いた『睡蓮』を屏風に写す際には、岩絵具特有の凹凸を再現するべく「一枚ウン十万円くらいする」3Dプリンターのような最新印刷技術を駆使して、精巧に印刷したとのこと。
篁菜穂が白根樹(SUMIRE)の描いた絵に感動するシーンでは、キャンバスをはみ出して絵が広がる演出が施されている。演出時の工夫について聞かれた萩原監督は「菜穂の審美眼と感動を表すのは3DCGが最適か、それとも草原に場面を移すのか…。絵が外に広がる表現に至るまでにCGチームと何度もやり取りを重ねました」とこだわりを語り「青木先生の奥行きを意識された絵を立体的に見せるべく、アップでの撮影やライティングにもこだわりました」と、美術がドラマのもう一人の重要な主人公でもあると解説した。
ドラマのラストで、菜穂は京都で生きることを決める。すると参加者からは「京都という“イケズな街”で、その後の彼女はどうやって京都人になっていくのだろうか?」という疑問が。これについて萩原監督が「京都だけにとどまらずに強く生きていきそう。そして京都を拠点に色々な場所を飛び回っていそう」とアクティブぶりを想像すると、武田プロデューサーも「確かに。原作者の原田マハさん同様に京都に対する敬虔さを持ち続けながら、外国でも活躍することが想像できる!」と妄想を広げて、インターナショナル版『いりびと-異邦人-』続編の制作決定か!?と大盛り上がり。
撮影秘話から国際的続編構想(!?)までトークが広がった『いりびと Inside Talk LIVE』もついにタイムアウト。ファンの皆様との初のリアルイベントに萩原監督は「撮影中はこの作品が皆さんにちゃんと伝わるのかどうか不安だったけれど、未来の菜穂の話まで出来るなんて。それはキャラクターがドラマの中でしっかりと生きた証拠。ファンの皆さんとお会いできて様々にお話しできたことは、自分にとって大きなプラスになりました」と言葉を熱くさせていた。
締めくくりは、みんなで記念撮影!さらに、参加記念品として萩原監督の直筆サイン入り台本をプレゼントという嬉しいお見送りも。最後の最後まで熱のこもった『いりびと Inside Talk LIVE』。年末のお忙しい時期にお越しいただいた熱烈『いりびと-異邦人-』ファンの皆様、ありがとうございました!
そして『いりびと-異邦人-』を最後までご視聴いただいた皆様、本当にありがとうございました!