WOWOWプロデューサーが語る
「いりびと-異邦人-」
企画成立秘話
制作秘話から、撮影論、演技論まで。
バラエティ豊かなライター陣が、
「いりびと-異邦人-」鑑賞に“あらたな視点”を加えるリレーコラム。
第一回目は、WOWOWドラマ制作部プロデューサーの
武田吉孝・植田春菜がお届けします。
いよいよ始まります「連続ドラマW いりびと-異邦人-」。ドラマ本編の放送・配信に合わせ、視聴者の皆さんの愉しみがより拡がる、より深まる、そんな読み物としてのコラムを、これから毎週様々な立場の人たちからリレーしていく予定です。記念すべき初回は、まず企画プロデューサーから。WOWOWドラマ制作部の武田吉孝と植田春菜の文責でお届けします。
本作「いりびと-異邦人-」は美術キュレーター出身の原田マハさんの本領とも言える美術小説を映像化した、本邦初のドラマ作品となります。見どころは、ドラマW新機軸であるアートミステリーというジャンル、真の芝居巧者たちによる欲望むき出しのドラマ、そしてそれと相反するように雅やかな京都のロケーションの数々、これらが渾然一体となるマリアージュにあります。またドラマや映画ではなかなか撮影許可のおりない美術展示施設や、クロード・モネ『睡蓮』の実物なども登場しますので、是非ご注目ください。
キャストにはWOWOW初主演となる高畑充希さん他、風間俊介さん、SUMIREさん、梶芽衣子さん、松重豊さんらをお迎えし、初夏の京都でほぼ全編の撮影を行いました。四季を感じる絵にも拘り、一部のカットは本編撮影期間とは別に、季節撮りもしています。また今回は耳にも新しさを求め、ドイツの音楽制作会社Audioforceさんに劇伴を担当して頂きました。最近の日本のドラマや映画に流れる音楽とは一味違うものを感じて頂けるのではないかと思います。
さて、作品のオモテのPRはこの辺にして。制作スタッフがプロダクションノートを書く機会も少なくなった昨今、当コラムではせっかくなので、媒体取材等では詳らかにならない企画成立の裏側を少しだけ皆さんにシェアしようかと思います。
「どうしてこの作品を企画したのか?」どの作品でもプロデューサーがよく聞かれる質問なんですが、美しい運命を感じさせるような理由が、そういつもは無くて(苦笑)。この作品に関しては「原田マハ原作にムキになるきっかけ」があった、そういうことでした。
この原作の前に実はもう一つ原田さんの原作をドラマ化しないかという提案が外部の方からあったのですが、我々社内プロデューサーのドラマ化への掘り込みが足りない、食い足りない、というような理由で、それをボツにされてしまったんですね。これ自体はまあ力足らずで全くしょうがないことなんですが、、、実際に作れるとこまで行ったら良いモノを作る自信やワクワク感があっただけに、武田も植田も悔しくて。だったら原田さんの違う原作でもいいから、絶対に何か成立させてやる!と、そこから既読も未読も合わせ原田さんの原作を手分けして二ヶ月くらいかけ二十冊ぐらい読み直しました。
そんな中で、物語の内容自体に胸を打たれて、かつ今のドラマWで再現しうるギリギリの世界観や時代性を持つもの、そう見込みをつけたのが今回の「いりびと-異邦人-」だったんです。
上にも書きましたが、原田さんの本領とも言える美術ジャンルの小説を映像化した作品はまだありませんでした。無茶苦茶面白いのに。勝手に推測した理由は単純。難しいから……。
ドラマや映画で既存の美術作品を映す、その撮影行為自体にもかなりの繊細さが必要となりますが、事前段階としての各種権利処理も煩雑で。また劇中フィクションとして創造されている美術作品は、それが凄いものだという説得力を物語中で語らせることにも苦労します。
既に権威付けされてないもの、その人の主観次第で評価が変わるものを、どう表現するのか?そこには一点何かを工夫するからってだけでは到達できない、シナリオ・芝居・映像・スタッフワーク、全ての高い総合力が要求されるんです。
でも前に食い足りないって言われたからには、そういう難しいことを成し遂げるから!って言わないと会社の上層部は絶対にやらせてくれないだろうし。一方、やってやる!って大言壮語してしまえば、あームキになってんな、煩いからじゃあやらせてみるか、って応援してくれる人も今度少しは出てくるんじゃないかと(笑)。それでちょっとまだ確信のないところもありましたが、そこは少々のハッタリでキーっ!と企画書叩いて提出したら、見事企画が通りました……。
ある種のリベンジ戦だったので、前の企画を提案してくれた外部プロデューサーの二人・スールキートス木幡久美さんとFCC中山ケイ子さんに、そこから是非にと参加をお願いしました。それから舞台設定上、圧倒的な京都地元パワーが必要だったので、「ふたがしら」「宮沢賢治の食卓」「黒書院の六兵衛」などWOWOWドラマの作を重ねてお付き合いの深まっていた東映京都撮影所の森井敦さんに撮影本隊の構えを、シナリオは企画提出時のプロット段階から我々の情念を支えてくれた関久代さんに依頼することに。
そして監督は萩原健太郎さん。これは武田の個人的な付き合いと想いで決めました。二〇一五年に彼が持っていたオリジナルシナリオの売り込みで出会い、仕事自体は成立してないのに、一年に何回かは飲んだりする関係が続いていて。映像や物語の地平を切り開いて行きたい強い思いや探究心がありつつ、いつでも耳と目がオープンなウルトラナイスガイだと感じていました。でも何度か「これ、やってみない?」と別の企画を振ってみたりしてたんですが、全然受けてくれなくて。彼にしたって脂が乗ってきていて、映画やドラマを一本でも多く撮りたいはずなのに、簡単に引き受けない。またムキになってたんでしょうね、こちらも。今回ばかりは受けてくれなきゃグレるぞ!そんな勢いで改めて彼を口説きました。クリエイターにとっても絶対に新しい挑戦と出会いがある、そんな作品になるからと。
結果そろそろヤバいな…と思って今回は引き受けてくれてくれたのかもしれませんが(苦笑)、コロナ対策でまだまだピリピリしがちだった初夏の撮影中、東映京都の職人スタッフに囲まれていつもニコニコ嬉しそうにカットを重ねている萩原監督を見て、こちらが癒やされてました。数年間かけてツンデレかまされた気分です…。
キャストのことまで触れ始めたら、あーもう全然書き足らない!という感じですが、芸能界のことは全て詳らかに書く方が野暮なので。キャスティングのそこここにも、こういう年月や企画をまたいだ執念のオファーや出会いがありました、とだけ。それは事実です。お察しください。
という訳で、この作品は「初の!」とか「新機軸!」とか謳っていますが、その裏側には様々な「二回目以上の挑戦」が結実しています。本当に丹精にモノを作り出して行こうと思えば、この作品じゃなくても、きっとそういうことが必要な時もあるのかもしれませんよね。
視聴者の皆さまには、まずドラマ本編の内容や出来を大いに楽しんで頂いて。その後ちょこっとだけ、エンドロールが流れている時間だけでよいので、そこに載っているクレジットを眺めながら、こういう裏方のロマンとご縁に想いを馳せて頂けると嬉しいなと思います。せっかくここまで書いたので(笑)。
最後になりましたが、このドラマは従来のドラマWファンの方々、原作やキャストきっかけで新たに視聴者になられた方々、たまたま観てしまった方々、どんな方々にも「見応え」と感じて頂けるものを随所に表現できたのではないかと思っています。是非最終話までお楽しみくださいませ。
WOWOWコンテンツ制作局ドラマ制作部
武田吉孝/植田春菜