愛’S EYE WOWOWテニス・スペシャルコメンテーターの杉山愛が、 世界を舞台に戦ってきた経験を基に、 試合を分けたポイント分析から、 テニスを通じて得たさまざまな知識・経験まで、 独自の視点を披露する!
杉山愛 オリジナルコラム 【愛'S EYE】
第34回 私の一番好きなグランドスラム大会
ウィンブルドンのセンターコートの
包まれるような雰囲気が大好きでした

写真:ロイター/アフロ
ツアーの中で、日常生活を一番楽しんでいたのもウィンブルドンでした。いつもはホテルですが、ウィンブルドンでは会場の近くのお家を借りていた(大会期間中、選手、関係者用に近くの民家が貸家として使用できる)ので、母の手料理も楽しめました。普段と同じ生活を送りながら、会場に通うことができたのです。
プレースタイルとして芝が好きだったこともウィンブルドンが好きな理由でした。ショーコートもたくさんあって、日本人の方もたくさん応援に来てくれる。これは心強かったですね。
センターコートに立ったのは忘れられない瞬間でした。シングルスでは2度、センターコートを経験しました。04年の準々決勝、マリア・シャラポワ戦と、06年3回戦のマルチナ・ヒンギス戦でした。ヒンギスには勝っています。あの試合は、一、二を争うほど記憶に残る試合です。
ウィンブルドンは、すごく雰囲気が素敵でした。屋根が半分クローズになっているというか、少し観客席を覆うように作られていて、それが独特の空気感を生んでいます。空がパーンとひらけていないので、包み込まれるような感覚で、それが私には心地よかったのです。観客の声援がこもり、それが全部コートに集まってくるように感じられました。
憧れの地だったので、センターコートに入った瞬間から浮かれたような感覚で、また、震える思いで、なんともうれしかったですね。もちろん、以前からテレビで見ていましたし、家では階段の踊り場にセンターコートのポスターが貼ってあって、毎日見て、憧れていたのです。
1999年にミックスダブルス(パートナーはマヘシュ・ブパシ=インド)で優勝し、2000年にはジュリー・アラールデキュジス(フランス)と組んで、グランドスラムの女子ダブルスで初めて優勝したのが全米オープンです。
グランドスラムで優勝するなんて思っていなかったので、夢が叶えられた場所ですね。最初のツアーコーチ(その後、他界)だった箕輪宇明さんはニューヨークが大好きでした。ですから、「どこかで見ててくれてるだろうな」という感覚がいつもあって、その意味でも、特別な思い入れのある大会でした。
全米では「4日がかり」の試合もしています(03年全米4回戦のフランチェスカ・スキアボーネ戦は雨による中断で、試合終了までに4日を要した)。集中しようと思ったら雨。「入り込んだ」と思えたら、ボールボーイの投げたボールがチェアアンパイアに当たって中断したり……。
もとはと言えば、初日に終わっていなくてはいけなかった試合です。第1セットをとって、第2セットも大きくリードしていて、そこで終わっておけば何ごともなかったのですが、そこの締めが甘かったのです。「そこを逃したからダメなんだよ」とテニスの神様に言われてるような感じでした。
03年のスコッツデール(米国)では「1日4試合」(雨天の影響で日程が狂い、最終日に単複2試合ずつを1日でこなした)も経験しているので、「4日で1試合」とどちらが大変だったと聞かれたこともあるのですが、「それは4日で1試合だよ」って答えました。それはそうですよね、負けた試合ですから。
本当に、どの大会も思い出は尽きませんね。
- 杉山 愛
- 生年月日:1975年7月5日
出身:神奈川県
主な戦績:
WTAツアー最高世界ランク シングルス8位 ダブルス1位
国際公式戦勝利数:シングルス492勝 ダブルス566勝
WTAツアー:シングルス優勝回数6回
ダブルス優勝回数38回
公式戦通算試合数:1772試合(シングルスとダブルス)
グランドスラム62大会連続出場のギネス記録を持つ。