KO率97%の王者に「キングコング」が挑戦
序盤で衝撃決着の可能性も
デビュー戦からの32連続KOと世界王座6連続KO防衛を含む39戦全勝(38KO)という驚異的なレコードを誇るWBC世界ヘビー級王者、デオンテイ・ワイルダー(32=アメリカ)に、30戦28勝(24KO)2無効試合の元WBA暫定王者、「キングコング」のニックネームを持つサウスポーのルイス・オルティス(38=キューバ)が挑む注目の一戦。これぞヘビー級というカードだけに、試合開始のゴングから瞬きは厳禁だ。
ワイルダーは08年北京五輪ヘビー級で銅メダルを獲得後、ゴールデンボーイ・プロモーションズと契約を交わしてプロに転向した。トレーナーには84年ロサンゼルス五輪金メダリストでプロでも世界王者になったマーク・ブリーランド氏がつき、荒々しいボクシングを生かしつつ長身痩躯の選手の戦い方を伝授してきた。その結果がWBC王座獲得、6度の防衛、全勝という結果に表れているといえる。しかし、「まだ本当の力は試されていない」という疑い深い識者やファンがいるのも事実だ。バーメイン・スティバーン(ハイチ)に2度勝ったほかエリック・モリナ(アメリカ)、ヨアン・デュオパ(フランス)、アルツール・ズピルカ(ポーランド)、クリス・アレオーラ(アメリカ)、ジェラルド・ワシントン(アメリカ)を一蹴してきたが、たしかに試合前も試合中もワイルダーに危機感を抱かせた相手はいない。それほど突き抜けてワイルダーが強いのか、それとも相手の力量の問題で相対的に強く見えるだけなのか――その答えが今回のオルティス戦で出るはずだ。
これが40戦目となるワイルダーにとって過去最強の敵と思われるオルティスは、オリンピックこそ出場していないがアマチュア選手層の厚いキューバで国際大会の代表になるなど368戦349勝19敗という戦績を残している。「私は10歳のときからボクシングをしているんだ。本当の戦士なんだよ。ワイルダーが戦ってきた相手と一緒にしないでほしいね」と矜持をみせている。プロ転向は30歳と遅かったが、まずまず順調に出世してきたといっていいだろう。過去に2つの無効試合があるが、ひとつは相手がリング外に転落して続行不能になったもので、もうひとつは自身のドーピング違反によるものだ。2試合とも一度はオルティスのKO勝ちが宣せられており、事実上のKO勝ちと判断してもいいだろう。ただ、こちらもワイルダーほど危険な相手とプロで対峙したことはない。ある意味、当然といえば当然なのだが、そのため両者ともに予測できない面があるともいえる。
ワイルダーは201センチの長身と右ストレートを軸にしたダイナミックな攻撃が売りのスラッガーだが、足をつかいながらスピードのある左ジャブを突いて戦うこともできる。今回は鋭いカウンターを持つサウスポーが相手ということで、慎重策を選択する可能性も捨てきれない。
一方のオルティスはワイルダーの右には細心の注意を払う必要がある。長距離から飛んでくるストレートをアゴに直撃されればキャンバスにダイブすることになってしまうだろう。正面に立たずに揺さぶりをかけ、ボディにもパンチを散らして攻略の糸口を探ることになりそうだ。
こうした反面、いきなりスリリングなパンチの交換になる可能性も十分にある。攻撃に絶対の自信を持つワイルダーは「今年(10月に)33歳になるが、試合も3月3日。だから3ラウンドぐらいでKOする。もっと早いかもしれない」とKO宣言している。オルティスは「やれるものならやってみろ。キャンバスに這いつくばるのはワイルダーさ」と応戦している。
オッズは5対2でワイルダー有利と出ているが、蓋を開けてみないとどんな展開になり、どんな結果が待っているか、予測が難しいカードといえる。確実なことは、KOでけりがつくということだ。初回のゴングが鳴ったあとは瞬きを我慢して観戦したい。
Written by ボクシングライター原功
ヘビー級トップ戦線の現状
WBA SC:アンソニー・ジョシュア(イギリス)
WBA :マヌエル・チャー(レバノン/シリア)
WBC :デオンテイ・ワイルダー(アメリカ)
IBF :アンソニー・ジョシュア(イギリス)
WBO :ジョセフ・パーカー(ニュージーランド)
2団体のベルトを持つアンソニー・ジョシュア(28=イギリス)とWBC王者のデオンテイ・ワイルダー(32=アメリカ)がトップ2で、WBO王者のジョセフ・パーカー(26=ニュージーランド)と元WBA暫定王者のルイス・オルティス(38=キューバ)、元WBA王者のアレクサンデル・ポベトキン(38=ロシア)の3人が追う構図となっている。すでに今回のワイルダー対オルティスと、3月31日(日本時間4月1日)にはジョシュア対パーカーの3団体王座統一戦が行われることが決まっている。また、その前座にはポベトキンも出場する予定だ。これらの結果により、さらなる統一戦に向けて前進がみられるのか、それとも再び混戦状態になるのか、ある程度の見通しがつくものと思われる。
WBAのレギュラー王座にはレバノン出身でシリア国籍を持ち、ドイツを拠点に活動するマヌエル・チャー(33)がついた。初防衛戦では4年近くもリングに上がっていないフレス・オケンド(44=プエルトリコ)と対戦することになっている。注目度の高いヘビー級トップ戦線にあって、ここだけ取り残された印象がある。
ランカーではWBC1位のディリアン・ホワイト(29=イギリス)、再浮上してきた大型選手、ドミニク・ブリージール(32=アメリカ)、
昨年10月のジョシュアへの挑戦を負傷のため見送ったクブラト・プーレフ(36=ブルガリア)、さらに再起路線を歩んでいる前IBF王者のチャールズ・マーティン(31=アメリカ)らがいる。また、21戦20勝(18KO)1分のジャーレル・ミラー(29=アメリカ)にも注目したい。