元4階級制覇王者の牙城を崩せるか
中盤から終盤勝負狙う亀海
サウル・カネロ・アルバレス(27=メキシコ)が返上して空位になった王座の決定戦。このクラスのWBA王座を含め4階級で戴冠を果たした実績を持つビッグネーム、元世界王者のミゲール・コット(36=プエルトリコ)に、亀海喜寛(34=帝拳)が挑む。亀海が勝てば輪島功一(三迫)、工藤政志(熊谷)、三原正(三迫)に続いて36年ぶり4人目のスーパー・ウェルター級での日本人世界王者誕生となる。亀海はアメリカのリングで分厚い壁をぶち破ることができるか。
コットは2000年シドニー五輪出場後にプロ転向を果たし、ここまで16年のキャリアで45戦40勝(33KO)5敗というレコードを残している。スーパー・ライト級にはじまりウェルター級、スーパー・ウェルター級、さらにミドル級まで制覇した実力者で、常に世界のボクシング界の注目を集めてきたスター選手だ。マニー・パッキャオ(38=フィリピン)、フロイド・メイウェザー(40=アメリカ)、アルバレスといったスーパースターには敗れたが、彼らに比肩する力量の持ち主として認識されている。なにしろ世界戦だけで24戦19勝(16KO)5敗という戦績を残しているほどだ。
コットはスーパー・ライト級時代は馬力を前面に出して左フックを中心にした強打で相手を倒しまくっていたが、ウェルター級では打って打たれての激闘型に変貌。しかし、そこでサイズや体力面の不利を悟ったのかスーパー・ウェルター級、ミドル級では足をつかいながら出入りするボクシングに切り替えた。4年前からコンビを組み始めたフレディ・ローチ・トレーナーの指示があったのだろう。
亀海も「パンチもスピードもあったスーパー・ライト級時代、激闘型のウェルター級時代を経て、スーパー・ウェルター級、ミドル級ではワンパンチの威力を維持しながら慎重に戦うようになった」とコットを分析している。
いまなお高い知名度と注目度を持つコットだが、15年11月のアルバレス戦以来のリングという点に不安もありそうだ。近年は引退についても言及するようになっており、体力面やモチベーションの維持に苦労しているとも受け取れる。
亀海(32戦27勝24KO3敗2分)は世界的な実績や知名度ではコットに及ばないが、絶好のタイミングでチャンスを掴んだといえる。昨年4月、亀海は世界挑戦経験者のヘスス・ソト・カラス(34=メキシコ)と引き分け、9月の再戦では圧倒して8回終了TKO勝ちを収めている。こちらも約1年ぶりのリングとなるが、再起戦のコットとは状況が異なる。亀海自身も「自分の位置が分かっているし、実力がついてきたことを実感している」と断言している。
コットがそうであるように、亀海のボクシングも日本をベースに戦っていた20代のときとはスタイルが変化してきている。すでにアメリカで8戦を経験しているが、3度の敗北と2度のドローと引き換えに必要に迫られて以前よりも攻撃的になったといっていいだろう。リスクも増したが、そのエキサイティングなスタイルがアメリカで受け入れられたわけだ。それが今回の大一番に繋がったともいえる。
試合2週間前の時点でのオッズが9対2と出ているように、客観的にみた場合、コット有利は動かしがたいところだろう。左フックや右ストレートの強打をちらつかせながら丹念に左ジャブを突いて安全な距離に身を置き、ポイントをさらっていく可能性がある。コットはそれだけのスキルを備えた選手だ。一方、身長でもリーチでも勝る亀海は体格の利を生かして圧力をかけ、相手をロープやコーナーに追い込む展開に持ち込みたい。ミスブローや多少の被弾を覚悟のうえで攻めることができれば逆にポイントをかき集めることもできよう。亀海がボディブローも打ち込むことができれば、中盤から終盤に大きなヤマをつくることは十分に可能だとみる。
Written by ボクシングライター原功
スーパー・ウェルター級トップ戦線の現状
WBA SC:エリスランディ・ララ(キューバ)
WBA :デメトリアス・アンドレイド(アメリカ)
WBA 暫定:ブライアン・カスターニョ(アルゼンチン)
WBC :ジャーメル・チャーロ(アメリカ)
IBF :ジャレット・ハード(アメリカ)
WBO :空位
4年間に6度の防衛を果たしているWBAのスーパー王者、エリスランディ・ララ(34=キューバ 28戦24勝14KO2敗2分)が実績面と総合力でトップに位置づけられる。アメリカ国籍を取得しているララはサウスポーの技巧派とあって相手から敬遠される傾向にあり、なかなか試合のペースが上がらないのが悩みの種だ。同じことはWBAのレギュラー王者、デメトリアス・アンドレイド(29=アメリカ)にもいえる。08年北京五輪ウェルター級8強のアンドレイドも長身のサウスポーで、常に対戦相手探しに苦労している。試合枯れ状態はララよりも深刻で、13年に獲得したWBO王座を活動不活発として剥奪された過去があるほどだ。今年3月に現在の王座についたが、まだ初防衛戦は決まっていない。24戦全勝(16KO)。
このふたりとは対照的にWBC王者のジャーメル・チャーロ(27=アメリカ 29戦全勝14KO)とIBF王者のジャレット・ハード(26=アメリカ)は元気だ。無冠時代はパワー不足が指摘されたチャーロだが、昨年5月の戴冠試合と今年4月の初防衛戦は鮮やかなKO勝ちを収めており、評価を上げている。ただし、18戦全勝(13KO)のサウスポー、エリクソン・ルビン(21=アメリカ)との指名防衛戦が義務づけられており、この試合が正念場になりそうだ。
ハードは今年2月、トニー・ハリソン(26=アメリカ)との決定戦で9回TKO勝ちを収めて王座を獲得。この試合を含めて6連続KO勝ちと勢いがある。20戦全勝(14KO)。
空位のWBO王座については、ミゲール・コット(36=プエルトリコ)対亀海喜寛(34=帝拳)で決定戦が行われるが、その一方で10月には元王者のリアム・スミス(29=イギリス 29戦27勝14KO1敗1分)とリアム・ウィリアムス(25=イギリス 18戦16勝11KO1敗1分)で挑戦者決定戦が予定されている。この両者は今年4月にWBO暫定王座決定戦で拳を交え、体重オーバーのスミスが9回終了TKO勝ちを収めている。再戦も接戦が予想される。