ロシア出身の破壊者 VS S.O.G(神の子)
オッズは大接近 11対10でウォード有利
17度の防衛をすべてKOで終わらせているミドル級王者のゲンナディ・ゴロフキン(カザフスタン)とともに、コバレフは現代を代表するハードパンチャーといっていいだろう。対するウォードは派手さでは王者に一歩譲るものの、スキル面では際立ったものがある。こちらは現代を代表するテクニシャンだ。矛が盾を突き破るのか、それとも盾が矛を跳ね返すのか。
コバレフはアマチュアで215戦193勝22敗の戦績を残し、軍人を対象とした世界選手権には3度出場して優勝2度、準優勝1度という実績を残している。しかし、ロシア国内ではアルツール・ベテルビエフ(現WBA世界ライト・ヘビー級3位、WBC3位、IBF2位、WBO4位)に2敗、マット・コロボフ(現WBC、IBF世界ミドル級15位)にも敗れるなど彼らの後塵を拝していた。09年7月にアメリカでプロに転向すると、その攻撃的なボクシングで快進撃を続け、7年間に31戦30勝(26KO)1分というレコードを残している。唯一の引き分けもいったんはコバレフのKO勝ちが宣せられたが、相手側が「フィニッシュブローが後頭部へのパンチだった」として抗議。これが受け入れられるかたちで2回引き分けとなったもので、事実上のKO勝ちといっていいだろう。ちなみにこのときの相手はコバレフよりも6キロ以上重い選手だった。
13年8月、ネイサン・クレバリー(イギリス=現WBA世界ライト・ヘビー級レギュラー王者)に4回TKO勝ちを収めてWBO世界ライト・ヘビー級王座を獲得し、3連続KO防衛後にWBA、IBF王者のバーナード・ホプキンス(アメリカ)に圧勝して3団体の統一を果たした(この時点でWBAのスーパー王者に昇格)。その後、元王者ジャン・パスカル(カナダ)を2度下すなどして通算防衛回数を8まで伸ばしている。圧力をかけながら相手を追い込む攻撃型の選手で、世界戦だけでも9戦全勝(7KO)を収めている。右ストレートから左フック、さらに右アッパーやボディブローなどに繋げる攻撃パターンを確立しており、パンチの連携は速い。以前はスタミナ面が未知といわれたが、世界戦で12ラウンドを2度フルに戦いきっており、不安は払拭されている。
一方、スーパー・ミドル級時代にWBA、WBC王座を獲得した実績を持つウォードは、究極の技巧派といっていいだろう。9歳のとき、元アマチュア・ボクサーだった父親にジムに連れていかれてボクシングを始め、アマチュアでは119戦114勝5敗(4敗説もある)の戦績を残している。01年と03年に全米選手権を制し、04年のアテネ五輪ではライト・ヘビー級で金メダルを獲得した。その年の暮にプロデビューし、ここまで30戦全勝(15KO)のレコードを記している。敗北はアマ時代の96年に喫したのが最後だというから、20年間は負け知らずということになる。世界戦の数は7度で、すべてで勝利を収めているもののKOはチャド・ドーソン(アメリカ)戦の一度だけと少ない。しかし、ドーソンのほかミッケル・ケスラー(デンマーク)、アルツール・アブラハム(ドイツ)、カール・フロッチ(イギリス)、サキオ・ビカ(オーストラリア)ら現役、元、あるいはのちの世界王者らと拳を交えており、中身は濃い。キャリアの割に試合数が少ないのは膝や肩の故障が多いためで、13年以降の3年間は4試合に留まっている。
ウォードは細かく立ち位置を変えながら左で相手をコントロールし、好機とみれば回転の速い連打で襲いかかるタイプだが、リスクが高いと判断すれば左を突いて相手の打ち気を逸らすなど駆け引きにも長けている。またディフェンス技術も卓抜したものがある。ルーキー時代にダウンを喫しているように決して打たれ強くはないが、テクニックでカバーしてきたといえる。
身長とリーチはウォードが183センチ/184センチ、ウォードが183センチ/180センチで、体格に差はない。決定的な違いはKO率84パーセントのコバレフが攻撃型の強打者で、スピードのあるウォードが攻防両面のスキルに長けたテクニシャンという点だ。それだけに勝負のカギはコバレフの強打が当たるかどうかという一点に絞られるといってもいいだろう。コバレフのパンチが急所を射抜けばKO防衛、空転を続けるようならばウォードの判定勝ちという予想に簡単に行き着く。ただし、試合はそんな簡単な展開にはなるまい。コバレフもスキル面で長けたものがあり、ウォードも倒すに十分な連打力があるからだ。スリルに加え虚々実々の駆け引きも味わえる試合になるのではないだろうか。ちなみにオッズは11対10でウォード有利と出ている。
Written by ボクシングライター原功
ライト・ヘビー級トップ戦線の現状
WBA :セルゲイ・コバレフ(ロシア)
WBA :ネイサン・クレバリー(イギリス)
WBA暫定:ドミトリー・ビボル(ロシア)
WBC :アドニス・スティーブンソン(カナダ)
IBF :セルゲイ・コバレフ(ロシア)
WBO :セルゲイ・コバレフ(ロシア)
一時はセルゲイ・コバレフ(ロシア)とアドニス・スティーブンソン(カナダ)の統一戦が期待されたが、実現しないまま現在に至る。その間隙を縫ってスーパー・ミドル級からアンドレ・ウォード(アメリカ)が転級してきたため、今回のコバレフ対ウォードが注目をさらったかたちになっている。この試合の勝者がスティーブンソンとの4団体統一戦に向かうのが理想形だ。
そのスティーブンソンは「スーパーマン」のニックネームを持つサウスポーの強打者で、29戦28勝(23KO)1敗と高いKO率を誇る。約3年半の在位で7度の防衛を果たしている。来年9月に40歳になるが、その前に頂上決戦を期待したいところだ。
無冠組ではWBAとWBC3位、IBF2位、WBO4位にランクされるアルツール・ベテルビエフ(ロシア)がチャンピオン級の実力者といえる。アマチュア時代にコバレフに2度勝っているベテルビエフは五輪にも2度出場。プロでは10戦全KO勝ちを収めている。故障が多くブランクがちな点が気がかりだが、来年は勝負をかけるはずだ。WBC1位のエレイデル・アルバレス(コロンビア/カナダ)は08年北京五輪戦士で、プロでは20戦全勝(10KO)をマークしている。こちらも17年に世界挑戦することになりそうだ。また、コバレフ対ウォードのアンダーカードで対戦する予定のWBC4位、オレクサンデル・グウォジク(ウクライナ)と同級10位のアイザック・チレンバ(マラウィ)の試合にも注目したい。12年ロンドン五輪ライト・ヘビー級銅メダリストのグウォジクが勝てば、来年には世界挑戦の声がかかるはずだ。