15連続KO防衛の絶対王者 VS 18戦全勝(12KO)の若武者
ゴロフキンの破壊的な強打に注目
04年アテネ五輪ミドル級で銀メダルを手土産にプロ転向後、ここまで34戦全勝(31KO)という完璧なレコードを残している絶対王者、ゴロフキンの16度目の防衛戦。
8歳若い挑戦者も18戦全勝(12KO)の好戦績を誇るが、中味の濃さには大差がある。今回も王者の豪腕が唸りを上げそうだ。
ゴロフキンは06年5月に移住先のドイツでプロデビューし、キャリア初期はその地をホームにして勝利を重ねた。10年8月にWBAの暫定王座を獲得したが、そのときの試合地はパナマだった。以後、故国カザフスタン、パナマ、ドイツ、ウクライナ、アメリカ(8度)、モナコ(3度)で挑戦者たちを退け、防衛回数は15に伸びている。
この間、WBAでは正王者からスーパー王者に昇格し、さらにWBCの暫定王座とIBF王座も獲得した。特筆すべきは、これらの試合をすべてKOで終わらせている点である。3回以内の早いKOもあれば7回、8回の中盤決着もある。さらに10回、11回の長丁場も経験済みだ。倒したパンチも左のボディブロー、右のカウンター、自ら踏み込んでの右フック、大きく振りかぶって放った左フックなど幅広い。V2戦とV14戦でやや手を焼いたぐらいで、ほかはワンサイドの圧勝が並んでいる。今年でプロ転向から10年、年齢は34歳になったが、衰えらしきものは微塵も感じられない。連続KO防衛記録の17が近づいていることや、同じ階級のWBC正規王者、サウル・カネロ・アルバレス(メキシコ)との頂上決戦が期待されていることもあり、モチベーションも十分といえる。
そんな充実した王者に挑むウェイドは、アマチュアを経て09年にプロ転向を果たした俊英で、高い潜在能力を秘めた選手といえる。当初はIBF1位のトゥレアノ・ジョンソン(バハマ)がゴロフキンへの挑戦を予定していたが、肩を痛めたため辞退。代わりに指名挑戦者としてチャンスが巡ってきたという経緯がある。「時期尚早という人もいるが、挑戦の話が舞い込んだときは迷わずに『イエス』と答えたんだ。私にはそれだけの自信がある」と強気だ。しかし、実績面では王者に大きく引き離されていることは否めない。世界王座はもちろん地域王座への挑戦も獲得もなく、世界レベルでの実績といえば昨年6月、元世界王者のサム・ソリマン(オーストラリア)からダウンを奪って2対1の10回判定勝ちを収めた程度なのだ。当時、IBF5位だったソリマンを破ったことで上位に進出してきたが、先物買いの声があるのも事実だ。パワーでは特Aのゴロフキンには遠く及ばないがウェイドだが、スピードでは十分に対抗できるだけのものを持っている。速い左リードを突いて試合をつくり、右ストレートに繋げる正攻法のボクシングがウェイドの持ち味だ。
パワーをはじめとする攻撃力と経験値、さらにテクニックや駆け引きでも五輪銀のゴロフキンが上を行くものと思われる。よって王者有利は絶対的なものといえる。挑戦者が過度に緊張して動きが鈍くなるようだと、ゴロフキンの強打が序盤に爆発する可能性もありそうだ。不安があるとすれば、ゴロフキンがスピードのある相手に苦戦する傾向がみられる点か。ウェイドが大振りせずに軽打をポンポンと繋いで王者のリズムを寸断し、そのうえで小さな綻びに付けこむことができれば挑戦者の勝機は広がりそうだ。
Written by ボクシングライター原功
ミドル級トップ戦線の現状
WBA SC:ゲンナディ・ゴロフキン(カザフスタン)
WBA :ダニエル・ジェイコブス(アメリカ)
WBA暫定:アルフォンソ・ブランコ(ベネズエラ)
WBC :サウル・カネロ・アルバレス(メキシコ)
WBC暫定:ゲンナディ・ゴロフキン(カザフスタン)
IBF :ゲンナディ・ゴロフキン(カザフスタン)
WBO :ビリー・ジョー・サンダース(イギリス)
3団体の王座を持つゲンナディ・ゴロフキン(カザフスタン)が押しも押されもせぬ第一人者といえる。なんといっても15連続KO防衛が光る。アマチュア時代に04年アテネ五輪で銀メダル、その前年の世界選手権では金メダルを獲得しているように、テクニックもある。4月8日に34歳になったが、肉体面での衰えは感じられない。そのゴロフキンと対戦の期待がかかるWBC王者、サウル・カネロ・アルバレス(メキシコ)も高い評価を受けている。王座を奪った昨年11月のミゲール・コット(プエルトリコ)戦はKOを逃したが、その前のジェームス・カークランド(アメリカ)戦のように壺にはまったときの強さはゴロフキンと肩を並べるほどだ。5月7日(日本時間8日)にアミール・カーン(イギリス)を相手に155ポンド(約70.3キロ)の契約体重で初防衛戦に臨むが、どんなパフォーマンスを見せるか要注目だ。
WBA王者のダニエル・ジェイコブス(アメリカ)は骨肉腫を克服して世界一の座に上り詰めた強打者で、昨年12月には友人でライバルのピーター・クィリン(アメリカ)を初回でストップして評価を上げた。打たれ脆い面もあり、試合は常にスリリングだ。WBO王者のビリー・ジョー・サンダース(イギリス)は昨年12月、アンディ・リー(アイルランド)から2度のダウンを奪って判定勝ち、戴冠を果たしたサウスポーだ。4月30日にはマックス・ブルサック(ウクライナ)を相手に初防衛戦に臨む。23戦全勝(12KO)。
いまは無冠だが、前WBA暫定王者のクリス・ユーバンク・ジュニア(イギリス)、肩の故障でゴロフキンへの挑戦をドミニク・ウェイド(アメリカ)に譲ったIBF1位のトゥレアノ・ジョンソン(バハマ)、そして村田諒太(帝拳)、さらに捲土重来を期す元王者クィリン、ハッサン・ヌダム・ヌジカム(フランス)、デビッド・レミュー(カナダ)、リーらが控えている。
万能型の完璧王者 VS 元五輪戦士
ゴンサレスに死角なし
3階級制覇の実績を持つ万能型のゴンサレスが、08年北京五輪に出場した元アマエリート、アローヨの挑戦を受ける。44戦全勝(38KO)という軽量級ばなれした驚異的なKO率を誇るゴンサレスの戦いぶりに注目が集まる。
ゴンサレスはWBAのミニマム級、WBAのライト・フライ級に続き、14年9月には八重樫東(大橋)を倒して現在の王座を手に入れた。すべて日本での戴冠で、本人も「日本は第二の故郷みたいな国」と話している。童顔のゴンサレスだが、リングの上では獰猛だ。前傾姿勢で圧力をかけ、中近距離に入ると繋ぎの速い左右の連打を上下に見舞う。バランスを保ったまま的確に急所を突いてくるため相手は対応しきれなくなり、ダウンするかストップされることになる。ボクシングの完成度は極めて高く、ボクサーの偏差値ともいえるパウンド・フォー・パウンド(体重が同一と仮定した場合の最強ランキング)で現役トップの評価を得ている。
挑戦者のアローヨは王者よりも2歳年長の30歳。アマチュア時代、双子の兄弟、マクジョー・アローヨと一緒に出場した08年北京五輪では3回戦敗退だったが、翌09年の世界選手権ではフライ級で優勝している。10年2月のプロ転向後は18戦16勝(14KO)2敗の戦績を残している。敗北のひとつはプロ4戦目で岡田隆志(元MTジム)にダウンを喫して敗れたもので、もうひとつは14年9月のタイ遠征でIBF王者のアムナット・ルエンロエン(タイ)に僅差の判定負けを喫したもの。ただし、この試合はアローヨに同情の声が多く、試合をチェックしたゴンサレスも「あれはアローヨが勝っていたので、彼は事実上の王者経験者といえる。侮れない相手」と警戒している。
しかし、予想となるとゴンサレス有利は不動だ。アローヨはスピード、パワー、テクニックとバランスのとれた戦力を備えているが、飛び抜けたものがないだけに王者を脅かすのは難しいと思われる。ゴンサレスがじわじわと追い込み、距離を潰して得意の波状攻撃で攻め落としてしまう可能性が高そうだ。
Written by ボクシングライター原功
資料1 4選手のTALE OF THE TAPE
ゴロフキン | ウェイド | |
生年月日/年齢 | 1982年4月8日/34歳 | 1990年4月12日/26歳 |
出身地・国籍 | カラゴンダ(カザフスタン) | ラーゴ(米国メリーランド州) |
アマ実績 | 04年アテネ五輪銀 350戦345勝5敗(他説あり) |
|
プロデビュー | 06年5月 | 09年3月 |
身長/リーチ | 179センチ/178センチ | 179センチ/189センチ |
戦績 | 34戦全勝(31KO) | 18戦全勝(12KO) |
戦闘スタイル | 右ファイター型 | 右ボクサーファイター型 |
ゴンサレス | アローヨ | |
生年月日/年齢 | 1987年6月17日/28歳 | 1985年12月5日/30歳 |
出身地・国籍 | マナグア(ニカラグア) | セイバ(プエルトリコ) |
アマ実績 | 88戦全勝 | 08年北京五輪出場(3回戦敗退) 09年世界選手権フライ級優勝 |
プロデビュー | 05年7月 | 10年2月 |
身長/リーチ | 159.5センチ/163センチ | 163センチ/163センチ |
戦績 | 44戦全勝(38KO) | 18戦16勝(14KO)2敗 |
戦闘スタイル | 右ボクサーファイター型 | 右ボクサーファイター型 |
資料2 リング誌のパウンド・フォー・パウンド トップ10
1.ローマン・ゴンサレス(ニカラグア/帝拳) | フライ級 |
2.セルゲイ・コバレフ(ロシア) | ライト・ヘビー級 |
3.ゲンナディ・ゴロフキン(カザフスタン) | ミドル級 |
4.アンドレ・ウォード(アメリカ) | ライト・ヘビー級 |
5.ギジェルモ・リゴンドー(キューバ) | スーパー・バンタム級 |
6.テレンス・クロフォード(アメリカ) | スーパー・ライト級 |
7.マニー・パッキャオ(フィリピン) | ウェルター級 |
8.サウル・カネロ・アルバレス(メキシコ) | ミドル級 |
9.ティモシー・ブラッドリー(アメリカ) | ウェルター級 |
10.山中慎介(帝拳) | バンタム級 |
資料3 ゴロフキンの全世界戦
相手・国籍 | 結果 | 試合地 |
ミルトン・ヌニェス(コロンビア) | ○1回KO | パナマ |
WBA暫定世界ミドル級タイトル獲得 ※初防衛戦を前に正王者に昇格 | ||
ルソン・タピア(コロンビア) | ○3回KO | カザフスタン |
カシム・ウーマ(ウガンダ) | ○10回TKO | パナマ |
ラファン・サイモン(アメリカ) | ○1回KO | ドイツ |
淵上誠(八王子中屋) | ○3回TKO | ウクライナ |
グレゴルツ・プロクサ(ポーランド) | ○5回TKO | アメリカ |
ガブリエル・ロサド(アメリカ) | ○7回TKO | アメリカ |
石田順裕(グリーンツダ) | ○3回KO | モナコ |
マシュー・マックリン(イギリス) | ○3回KO | アメリカ |
カーティス・スティーブンス(アメリカ) | ○8回終了TKO | アメリカ |
オスマヌ・アダマ(ガーナ) | ○7回TKO | モナコ |
ダニエル・ギール(オーストラリア) | 〇3回TKO | アメリカ |
マルコ・アントニオ・ルビオ(メキシコ) | 〇2回KO | アメリカ |
WBC暫定世界ミドル級王座獲得 | ||
マーティン・マレー(イギリス) | 〇11回TKO | モナコ |
ウィリー・モンロー・ジュニア(アメリカ) | 〇6回TKO | アメリカ |
デビッド・レミュー(カナダ) | 〇8回TKO | アメリカ |
IBF世界ミドル級王座獲得 |
資料4 連続KO防衛の歴代記録
17連続KO防衛 | ウィルフレド・ゴメス(プエルトリコ)SB級 |
15連続KO防衛 | ゲンナディ・ゴロフキン(カザフスタン)M級 |
14連続KO防衛 | ダリウス・ミハエルゾウスキー(ポーランド)LH級 |
10連続KO防衛 | ロベルト・デュラン(パナマ)L級 ナジーム・ハメド(イギリス)FE級 |
9連続KO防衛 | ヘンリー・アームストロング(アメリカ)W級 カルロス・サラテ(メキシコ)B級 フェリックス・トリニダード(プエルトリコ)W級 |
8連続KO防衛 | ホセ・クエバス(メキシコ)、リカルド・ロペス(メキシコ)、エデル・ジョフレ(ブラジル)、カオサイ・ギャラクシー(タイ)、トミー・バーンズ(カナダ)、アーロン・プライアー(アメリカ)、シェーン・モズリー(アメリカ) |