「ラスト・ファイト」宣言のメイウェザー
ベルトは「いまが私の旬」と意欲
5月に長年のライバル、マニー・パッキャオ(フィリピン)に3対0の明白な判定勝ちを収め、あらためて最強であることを印象づけたメイウェザーが、今度は「永遠の最強を証明するために戦う」としてベルト戦に臨む。そして「これがラスト・ファイト」とも宣言している。2年半前にHBOテレビからショータイムに移籍する際、メイウェザーは「30ヵ月に6試合。最低2億ドル(現在のレートで242億円)保障」という超大型契約を結んだが、その期間満了ということもあり、引退は現実味のある話ともいえる。その一方で、メイウェザーは過去に何度か戦線復帰した事実もあり「今度も単発の大型契約をして現役を続けるだろう」という見方もある。その去就も含め、今回のベルト戦に注目したい。
メイウェザーは先のパッキャオ戦では前半に窮地があったものの、それ以外はほとんど危ない場面はなく、まずは完勝といっていい内容だった。2億2500万ドル(約272億円)の驚愕報酬に見合うものを提供したかどうかとなると見解が分かれるところだが、メイウェザーの持ち味であるスピード、防御スキル、勝負勘などに衰えが見られなかったことは事実だ。来年2月で39歳になるが、その気になれば今後もトップ選手として頂点に君臨し続けることは十分に可能といえよう。
そのメイウェザーが最後の対戦相手として逆指名したのがベルトだ。パッキャオ戦からほどなくしてメイウェザーは「9月にベルトかイマム・メイフィールド(アメリカ)と対戦して引退する」とメディアに明かしていたが、その当時は誰も信用してはいなかった。ランクから外れていたメイフィールドはともかく、3月にWBAの暫定王座を獲得したばかりのベルトにとってはファンや関係者から屈辱的な見方をされたものといえる。ベルト自身は「いまの自分がどんな評価をされているか分かっている」と冷静だ。そのうえで「(13年秋に)肩の手術をして生まれ変わった。いまこそが私の旬だ」とも話している。
両親の出身国であるカリブのハイチ代表として04年アテネ五輪に出場した経験を持つベルトは、その年の12月にプロに転向した。4年後の08年6月、メイウェザーが返上したWBC世界ウェルター級王座を獲得。このときの戦績は22戦全勝(18KO)というみごとなものだった。「攻撃力のあるメイウェザー」「メイウェザーの後継者」との声と期待は当然ともいえた。防衛戦では3連続判定勝ちと少々おとなしくなったが、V4戦、V5戦は8回TKO、初回TKOと再び勢いづいた。初の挫折を味わわされたのはそんな矢先の11年4月、ビクター・オルティス(アメリカ)との6度目の防衛戦だった。いきなり初回に2度のダウンを奪われたベルトは2回にお返しのダウンを奪い、6回にもダウンを追加。しかし、詰めに行ったところに被弾、この試合3度目のダウンを喫してしまった。結果は3対0の判定負け。5ヵ月後にIBF王座を獲得したものの、翌12年にはオルティスとの再戦を前に上腕二頭筋を断裂するというケガを負ってしまい、折り悪くドーピングでも陽性反応が出て出場停止処分を科されてしまった。復帰後はロバート・ゲレロ(アメリカ)、ヘスス・ソト・カラス(メキシコ)に打ち込まれて連敗と、すべてが悪い方に回転していた。
そんな状況が好転したのは痛めていた肩をカラス戦後に手術してからだ。14ヵ月のブランク後、昨年9月に戦線復帰を果たし、今年3月にはホセシト・ロペス(アメリカ)との決定戦を6回TKOで制してWBA暫定世界ウェルター級王座を獲得した。まだまだ無敗時代の生きの良さは十分に戻ったとはいえないが、回転の速い連打は健在だ。メイウェザーの48戦全勝(26KO)には及ばないが、33戦30勝(23KO)3敗の戦績は十分に見栄えのするものといえる。KO率は約70%と高く、タイプが異なるとはいえメイウェザーの54%を大きく上回っている。ベルトの勝機は被弾覚悟の打撃戦にあるといえるかもしれない。
両者の戦力を単純比較した場合、メイウェザーの大差判定勝ち、あるいはレフェリー・ストップによるTKO勝ちの可能性が高いといえるカードだが、ベルトの攻撃力を軽視することは危険だ。予想どおりメイウェザーが完勝して引退するのか、それともベルトが41対1という屈辱的なオッズを引っくり返して下剋上を起こすのか。いずれにしても、今回も観戦者が歴史の証人になることは間違いない。
Written by ボクシングライター原功
ウェルター級トップ戦線の現状
WBA SC :フロイド・メイウェザー(アメリカ)
WBA :キース・サーマン(アメリカ)
WBA暫定:アンドレ・ベルト(アメリカ)
WBC :フロイド・メイウェザー(アメリカ)
IBF :ケル・ブルック(イギリス)
WBO :ティモシー・ブラッドリー(アメリカ)
マニー・パッキャオ(フィリピン)とのライバル対決で勝利を収めたフロイド・メイウェザー(アメリカ)が、このクラスのみならず全階級を通じたチャンピオンのなかのチャンピンといえる。今回のアンドレ・ベルト(アメリカ)戦で本当に引退してしまうのか、試合後も注目を集めることになりそうだ。
メイウェザーとの差は小さくないが、無敗のキース・サーマン(アメリカ)とケル・ブルック(イギリス)は高い潜在能力を持っており、さらなる躍進が期待できる。WBO王座に返り咲いたティモシー・ブラッドリー(アメリカ)、ブルックの前のIBF王者ショーン・ポーター(アメリカ)、メイウェザーとの対戦を熱望しながら実現に至らなかったWBC1位のアミール・カーン(イギリス)、14年にメイウェザーと2度対戦したマルコス・マイダナ(アルゼンチン)らが、これに続く。若手では勢いのあるサダム・アリ(アメリカ)、エロール・スペンス(アメリカ)に注目したい。現役続行を宣言しているパッキャオは、メイウェザー戦の前から痛めていた右肩の手術を受けたため現在はリハビリ中だが、早ければ来年2月には戦線復帰が可能と伝えられる。
下のクラスからダニー・ガルシア(アメリカ)も参入を狙っており、今後もウェルター級トップ戦線は目が離せない状況が続きそうだ。
<資料>TALE OF THE TAPE
メイウェザー | ベルト | |
生年月日/年齢 | 1977年2月24日/38歳 | 1983年9月7日/32歳 |
出身地 | アメリカ(ミシガン州グランドラピッズ) | アメリカ(フロリダ州ウィンターヘブン) |
アマチュア戦績 | 90戦84勝6敗 96年アトランタ五輪フェザー級銅 |
200戦以上 04年アテネ五輪出場 (両親の母国ハイチ代表) |
プロデビュー | 96年10月 | 04年12月 |
プロ戦績 | 48戦全勝(26KO) | 33戦30勝(23KO)3敗 |
勝率/KO率 | 100%/約54% | 91%/70% |
世界戦の戦績 | 25戦全勝(10KO) | 10戦8勝(5KO)2敗 |
トレーナー | フロイド・メイウェザー・シニア | バージル・ハンター |
ニックネーム | 「マネー」 | ―― |
身長/リーチ | 173センチ/183センチ | 169センチ/174センチ |
戦闘タイプ | 右ボクサー型 | 右ボクサーファイター型 |