14連続KO防衛の絶対王者 VS カナダのタイソン
KO率91%と86%の究極の豪腕対決
33戦全勝(30KO)、KO率91パーセントのゴロフキンと、36戦34勝(31KO)2敗、KO率86パーセントのレミュー。KO決着が約束されたカードといっていいだろう。
ゴロフキンは10年8月にWBAの暫定王座を獲得し、その後、正王者に昇格。以来、5年以上の在位で14連続KO防衛を記録している。この間、14年にはWBAからスーパー王者に認定され、その年の秋にはWBCの暫定王座も獲得している。また、世界戦の前から続いているKO勝ちは20まで伸びている。3ラウンド以内の序盤KOもあれば5ラウンドや7ラウンドなどの中盤KO、そして11ラウンドの終盤KOもある。以前はスタミナ面が疑問視されていたが、それも問題ないことを証明している。相手に巧みにプレッシャーをかけてロープやコーナーに追い詰め、ときにはワンパンチ、ときには上下のコンビネーションを浴びせてキャンバスに沈めてしまう。繰り出すパンチは右も左も硬質感があり、ハンマーで殴っているような印象を与える。普段は温厚な童顔の紳士として知られるゴロフキンだが、リングの中では獰猛で無慈悲なハンターといえる。強打が取り上げられることが多いが、アマチュア時代には03年の世界選手権で金メダル、04年のアテネ五輪で銀メダルを獲得するなどテクニックの面でも確かなものがある。元WBC世界スーパー・バンタム級王者のウィルフレド・ゴメス(プエルトリコ)が1977年から83年にかけて記録した17連続KO防衛も視野に入るところまできており、ゴロフキンは記録面でも注目を集めている。
そんな絶対王者と拳を交えるレミューは、今年6月の決定戦を制してIBF王座を獲得した26歳で、これが世界王者として迎える初のリングとなる。実績や大舞台の経験値という点ではライバル王者に及ばないが、26歳の若さと左フックを中心にした強打では引けをとっていない。レミューは07年に18歳でプロデビューし、いきなり20連続KO勝ちを収めて注目を集めた。馬力と若さにまかせて前進し、得意の左フックを思い切り叩きつけて倒すという豪快で分かりやすいボクシングが受け、多くのファンを惹きつけることになった。世界的な強豪との対戦が少ないまま11年には世界上位まで進出したが、ここでマルコ・アントニオ・ルビオ(メキシコ=のちのWBC世界ミドル級暫定王者)、元WBA世界スーパー・ウェルター級王者のジョアシム・アルシン(カナダ)に連敗、急停止を強いられた。ここからレミューの第2章が始まり、12年以降は8連勝(7KO)をマークしてトップ戦線に戻ってきた。昨秋にはオスカー・デラ・ホーヤのゴールデンボーイ・プロモーションズ(GBP)と契約を交わし、アメリカ進出も果たした。これで大きく運が開けた。今年2月にジャーメイン・テイラー(アメリカ)が不祥事を起こしてIBF王座を剥奪されるというタイミングも重なり、レミューは元世界王者のハッサン・ヌダム・ヌジカム(フランス)との王座決定戦に出場するチャンスを掴む。苦戦も予想されたこの試合、レミューは左フックで4度のダウンを奪って12回判定勝ちを収め、念願のベルトを腰に巻いた。上体を沈めて前進し、体ごと飛び込んで上下に強打を散らすファイター型で、まさに今が旬の選手といえる。ゴロフキンと並んだ会見の席でも「彼と戦うことが目的なのではなく、勝つことが私の目的」と話して自信をのぞかせている。
ともに相手にプレッシャーをかけて下がらせ、そこに乗じて左右の強打を打ち込むスタイルを確立しているが、攻防の幅、技術面ではゴロフキンが勝る。体格面は互角だが、カウンターのタイミングも会得しているゴロフキンが総合的な戦力では一枚上といっていいだろう。よってゴロフキンが早い段階で圧力をかける展開に持ち込むようだと、防御が甘いレミューのボディ、顔面を強打が襲うことになりそうだ。そうした一方、レミューの左フックが番狂わせを起こす可能性も十分にある。ゴロフキンは5月のウィリー・モンロー・ジュニア(アメリカ)戦では珍しくパンチを浴びるシーンが目立っただけに、レミューを相手に同じミスを犯すようだとV15に黄信号が灯ることになるだろう。いずれにしてもジャッジ不要のKO決着が濃厚だ。
Written by ボクシングライター原功
ミドル級トップ戦線の現状
WBA SC :ゲンナディ・ゴロフキン(カザフスタン)
WBA :ダニエル・ジェイコブス(アメリカ)
WBA暫定:クリス・ユーバンク・ジュニア(イギリス)
WBC :ミゲール・コット(プエルトリコ)
WBC暫定:ゲンナディ・ゴロフキン(カザフスタン)
IBF :デビッド・レミュー(カナダ)
WBO :アンディ・リー(イギリス)
出身地、国籍、生い立ち、戦闘スタイルといった面で大きく異なる個性的なメンバーがトップに揃った。実績、実力で頭ひとつ抜けた存在といえるのがWBAスーパー王座とWBC暫定王座を保持しているゲンナディ・ゴロフキン(カザフスタン)だ。在位は5年を超え、防衛回数も14を数えるロングラン・チャンピオンだ。戴冠試合を含めた世界戦15戦すべてがKO勝ちという破格のハードパンチャーである。しかし、今回のIBF王者デビッド・レミュー(カナダ)との統一戦は、過去にないリスキーなカードといえる。
WBC王者のミゲール・コット(プエルトリコ)は11月21日(日本時間22日)に元WBA、WBC世界スーパー・ウェルター級王者のサウル・カネロ・アルバレス(メキシコ)の挑戦を受ける。ともに実績も実力も折り紙つきの強打者で、ふたりとも直近の試合では豪快なKO勝ちを収めており勢いもある。オッズは9対4でアルバレス有利と出ているが、どう転ぶか分からない注目カードだ。
12月にはWBAのレギュラー王者ダニエル・ジェイコブス(アメリカ)が前WBO王者のピーター・クィリン(アメリカ)を相手に3度目の防衛戦を行うことが決まっている。このふたりはニューヨークのブルックリン在住で友人同士でもあるが、ビジネスと割り切って拳を交えることになる。オッズは3対2でクィリン有利と出ている。同じ12月にはWBO王者のアンディ・リー(イギリス)も指名挑戦者ビリー・ジョー・サンダース(イギリス)を相手に初防衛戦を予定している。このほか、IBFの挑戦者決定戦としてイーモン・オケイン(アイルランド)対トゥレアノ・ジョンソン(バハマ)も組まれている。こうしたなか12年ロンドン五輪金メダリストでプロ転向後は7戦全勝(5KO)の村田諒太(帝拳)もトップ戦線への割り込み、世界挑戦の機会を狙っている。
<資料>TALE OF THE TAPE
ゴロフキン | レミュー | |
生年月日/年齢 | 1982年4月8日/33歳 | 1988年12月22日/26歳 |
出身地 | カザフスタン | カナダ |
アマチュア戦績 | 04年アテネ五輪銀 | ―― |
プロデビュー | 06年5月 | 07年4月 |
獲得王座 | WBAミドル級王座 WBCミドル級暫定王座 |
IBFミドル級王座 |
身長/リーチ | 179センチ/178センチ | 177センチ/178センチ |
ニックネーム | 「GGG」 | ―― |
戦闘スタイル | 右ファイター型 | 右ファイター型 |
戦績 | 33戦全勝(30KO) | 36戦34勝(31KO)2敗 |
<資料>現役世界王者 KO率10傑 ※暫定王者は除く
(1)デオンテイ・ワイルダー(アメリカ) 35戦全勝(34KO)≒97.1%
(2)ゲンナディ・ゴロフキン(カザフスタン) 33戦全勝(30KO)≒90.9%
(3)井上尚弥(大橋) 8戦全勝(7KO)≒87.5%
(4)ダニエル・ジェイコブス(アメリカ) 31戦30勝(27KO)1敗≒87.1%
(5)セルゲイ・コバレフ(ロシア) 29戦28勝(25KO)1分≒86.2%
(6)デビッド・レミュー(カナダ) 36戦34勝(31KO)2敗≒86.1%
(7)ローマン・ゴンサレス(ニカラグア/帝拳) 43戦全勝(37KO)≒86.0%
(8)キース・サーマン(アメリカ) 27戦26勝(22KO)1分≒81.5%
(9)内山高志(ワタナベ) 24戦23勝(19KO)1分≒79.2%
(10)ウラディミール・クリチコ(ウクライナ) 67戦64勝(53KO)3敗≒79.1%
軽量級の破壊者 VS ハワイアン・パンチ
こちらもKO決着が濃厚
3階級制覇の実績を持つ43戦全勝(37KO)のゴンサレスと、2階級制覇を成し遂げている「ハワイアン・パンチ」ビロリア。112ポンド(約50.8キロ)を体重上限とするフライ級ながらKO決着の可能性が高いカードといえる。
ゴンサレスはミニマム級、ライト・フライ級、そしてフライ級と3階級の王座をすべて日本で獲得してきた。現在のベルトは昨年9月、八重樫東(大橋)を9回TKOで下して手に入れたもので、これが3度目の防衛戦となる。この5月にはライト・フライ級時代に10度の防衛を記録した元世界王者エドガル・ソーサ(メキシコ)を2回TKOで一蹴するなど、圧倒的な強さを誇示している。フロイド・メイウェザー(アメリカ)が去ったあと、アメリカの老舗雑誌「リング・マガジン」では体重が同じと仮定した場合のパウンド・フォー・パウンドの現役最強に選ばれているほどだ。隙のない比較的ゆったりした構えで相手に圧力をかけ、ワンツー、左右のフック、アッパーの上下打ちなど多彩で強いブローをテンポよく打ち込む万能型の選手で、守りも固い。アマチュアで87戦全勝(1敗説もある)、プロで43戦、合わせて130戦無敗のレコードが示すとおり、現時点では完全無欠といえる。
対するビロリアはフィリピン人の両親のもとハワイで生まれだが、9ヵ月のときにフィリピンに移住。5歳のときに再びハワイに戻った。ハワイという場所がら日本に対する愛着もあり「寿司やしゃぶしゃぶが大好き」とも話している。ボクシングではアマチュア時代からエリートとして知られ、2000年のシドニー五輪にも出場した実績を持っている。01年5月にプロに転向し、05年にWBC世界ライト・フライ級王座、09年4月にIBF同級王座を獲得した。フライ級に転向してからは11年7月にWBO王座を獲得して2階級制覇を成し遂げている。42戦36勝(22KO)4敗2無効試合と数字面ではゴンサレスほどのインパクトはないが、ツボにはまったときの強さは特別なものがある。好不調の波があるが、最近は4連勝、3連続KOと高い次元で安定している。ビロリアは「ゴンサレスは私のように動けて強いパンチを打つ相手と戦ったことがない。様々な点でテストされることになる」と話している。
ソーサ戦では初回から積極的にプレッシャーをかけて接近、序盤で潰してしまったゴンサレスだが、ビロリアには左フックという決め手があるだけに警戒する必要があるだろう。リスクを負って強引に攻め落とすよりも、速いテンポで出入りしながら上下にパンチを散らして徐々にダメージを与えていく策を選択するのではないだろうか。ゴンサレス有利は絶対的なものといえるが、波瀾を起こす可能性を秘めたビロリアの「ハワイアン・パンチ」にも注目したい。
Written by ボクシングライター原功
<資料>「リング・マガジン」のパウンド・フォー・パウンド 現役10傑
(1)ローマン・ゴンサレス (28歳=ニカラグア/帝拳)フライ級
(2)アンドレ・ウォード (31歳=アメリカ)S・ミドル級
(3)セルゲイ・コバレフ (32歳=ロシア)L・ヘビー級
(4)ゲンナディ・ゴロフキン (33歳=カザフスタン)ミドル級
(5)ギジェルモ・リゴンドー (35歳=キューバ)S・バンタム級
(6)ウラディミール・クリチコ(39歳=ウクライナ)ヘビー級
(7)テレンス・クロフォード (28歳=アメリカ)S・ライト級
(8)マニー・パッキャオ (36歳=フィリピン)ウェルター級
(9)山中慎介 (33歳=帝拳)バンタム級
(10)ケル・ブルック (29歳=イギリス)ウェルター級