46戦全勝の天才 VS 南米のハンマー・パンチ
MAYHEM(大混乱)――何かが起こる?
メイウェザーとマイダナは今年5月、ウェルター級の王座統一戦で拳を交え、WBCの王者のメイウェザーが12回判定勝ちを収め、マイダナからWBA王座を奪い取って統一を果たした。マイダナが強引に接近し、それをメイウェザーが捌く、あるいは迎え撃つという展開の激闘だった。ダウンシーンこそなかったものの正確なパンチで迎撃したメイウェザーの勝利は不動と思われたが、ジャッジのひとりは114対114のイーブンと採点、物議をかもしたものだった。「私が勝っていたと思う。今度やれば絶対に勝てる」と主張するマイダナの意見に同調する人は少なかったが、スリリングな試合だったことは誰もが認めるところである。そんななか「マイダナが望むならば再戦もOKさ」とメイウェザーが応じたことから、今回のダイレクト・リマッチが決まった。
イベントのキャッチコピーは「MAYHEM」(騒乱、大混乱)。46戦全勝(26KO)の5階級制覇王者の名前に関連づけたコピーだが、ひょっとすると実際に大混乱(番狂わせ)が起こるかもしれない。現にオッズ(賭け率)は5月の初戦が9対1でメイウェザー有利だったのに対し、今回の再戦は6対1と差が縮まっているのだ。初戦の苦戦から判断して、メイウェザーにとって猛烈なファイター型のマイダナは相性がよくないと判断されているのである。過去にメイウェザーが同じ相手と戦った例は12年前に一度あるが、そのホセ・ルイス・カスティージョ(メキシコ)も典型的なファイター型だった。二試合とも接戦だったが、特に初戦はHBOテレビの解説者が4ポイント差でカスティージョの勝利を推すほど拮抗した内容だった。こうしたデータからみても、メイウェザーがファイター型を必ずしも得意とはしていないことがうかがえる。
ただし、メイウェザーがアルツロ・ガッティ(カナダ)、カルロス・バルドミール(アルゼンチン)、リッキー・ハットン(イギリス)、ビクター・オルティス(アメリカ)、サウル・アルバレス(メキシコ)といった好戦的なスタイルの選手に完勝している事実も忘れてはなるまい。要は攻め方の問題ということになりそうだ。
カスティージョとマイダナに共通項があるとすれば、一発の破壊力があることに加え執拗な連打が繰り出せるという点だろう。となると今回の試合の焦点は、マイダナが前回以上に徹底した連打攻撃でメイウェザーを追い込むことができるかどうかに絞られそうだ。「前回よりも激しく攻め、今度こそKOする」と前WBA王者は鼻息が荒い。強引に叩きつける左右のフックがクリーンヒットした場合、メイウェザーといえどもダメージを被らずに立っていられる保証はない。逆に、もともと攻撃偏重のマイダナが力んで攻めるとなると、隙も多くなりそうだ。そこにメイウェザーの正確なカウンター、あるいはボディブローが命中する可能性も十分に考えられる。
すでに12ラウンドにわたって拳を交え、ともに相手の手の内は知り尽くしているはず。歴史的な大仕事の完遂に意気込むマイダナが試合開始のゴングと同時に仕掛け、メイウェザーが迎撃するというスリリングな試合になりそうだ。スピードをはじめ総合力で勝るメイウェザー有利は不動だが、何が起こるか分からない。
Written by ボクシングライター原功
<資料>TALE OF THE TAPE
メイウェザー | マイダナ | |
生年月日 | 1977年2月24日/37歳 | 1983年7月17日/31歳 |
出身地 | グランドラピッズ(アメリカ・ミシガン州) | サンタフェ(アルゼンチン) |
アマ戦績 | 90戦84勝6敗 ※96年アトランタ五輪銅獲得 |
戦績不明 ※03年世界選手権ベスト8 |
プロデビュー | 96年10月 | 04年6月 |
獲得王座 | S・フェザー級 ライト級 S・ライト級 ウェルター級 S・ウェルター級 |
S・ライト級 ウェルター級 |
ニックネーム | 「マネー」 | 「エル・チノ」 |
戦績 | 46戦全勝(26KO) | 39戦35勝(31KO)4敗 |
KO率 | 約57% | 約80% |
身長 | 173センチ | 170センチ |
リーチ | 183センチ | 175センチ |
戦闘スタイル | 右ボクサーファイター型 | 右ファイター型 |
フロイド・メイウェザー
ウェルター級、S・ウェルター級トップ戦線の現状
★ウェルター級トップ戦線
WBAスーパー:フロイド・メイウェザー(アメリカ)
WBA暫定 :キース・サーマン(アメリカ)
WBC :フロイド・メイウェザー(アメリカ)
IBF :ケル・ブルック(イギリス)
WBO :マニー・パッキャオ(フィリピン)
★スーパー・ウェルター級トップ戦線
WBAスーパー:フロイド・メイウェザー(アメリカ)
WBA :エリスランディ・ララ(キューバ)
WBC :フロイド・メイウェザー(アメリカ)
IBF :カルロス・モリナ(メキシコ)
WBO :デメトリアス・アンドレイド(アメリカ)
今回の試合は147ポンド(約66.6キロ)のウェルター級リミットで行われるが、メイウェザーが保持しているウェルター級のWBAとWBC両王座と、S・ウェルター級のWBC王座がかけられることになった。そもそも2階級の世界王座を同時に保持することそのものが珍しく、スーパースターだけに許された特権と理解すればいいのだろうか。今回の試合でマイダナが勝てば一気に2階級、計三つのベルトが手に入ることになる。26年前にシュガー・レイ・レナード(アメリカ)がドニー・ラロン(カナダ)戦でS・ミドル級とL・ヘビー級のふたつのタイトルを同時に獲得したことはあるが、これらは異例中の異例といえる。
今回の再戦はウェルター級とS・ウェルター級のトップ選手たちにとって、極めて興味深いものといえよう。特に対戦に向けて障害の少ない前WBA、WBC世界S・ウェルター級王者サウル・アルバレス(メキシコ)、WBA暫定世界ウェルター級王者キース・サーマン(アメリカ)、元WBA、IBF世界S・ライト級王者アミール・カーン(イギリス)にとっては勝負の行方が気になるところだろう。テレビ局やプロモーターの壁はあるものの、数年前から対戦が期待されているWBO世界ウェルター級王者マニー・パッキャオ(フィリピン)、さらにはショーン・ポーター(アメリカ)を破って戴冠を果たしたばかりのIBF世界ウェルター級王者ケル・ブルック(イギリス)も来年はビッグマッチに絡んできそうだ。
また、11月にも試合が計画されている元4階級制覇王者ファン・マヌエル・マルケス(メキシコ)、前WBO世界ウェルター級王者ティモシー・ブラッドリー(アメリカ)らの動向にも注目したい。
※9/5時点のデータを掲載しております。