5階級制覇の天才 VS 昇竜のパワー・ヒッター
伝説の継続か、それとも新時代到来か
今年一番のスーパーファイトといえる。メイウェザーは44戦全勝(26KO)の5階級制覇王者で、現在はWBCのウェルター級レギュラー王座だけでなく、S・ウェルター級のWBAスーパー王者、さらにWBCのダイヤモンド・ベルト保持者でもある。対するアルバレスはS・ウェルター級のWBAとWBCのレギュラー王座に君臨している。単なるタイトルマッチの枠を超え、この試合はウェルター級 & S・ウェルター級の最強決定戦といってもいいだろう。のみならず、メイウェザーが現役のパウンド・フォー・パウンド最強の称号を持っているため、その座を巡る最高峰の戦いと位置づけることもできる。
メイウェザーはスピードとテクニックを軸にした創造的なボクシングを展開する右のボクサーファイター型で、防御技術やスタミナ、タフネスといった点でも秀でたものがある。オスカー・デラ・ホーヤ(アメリカ)、ファン・マヌエル・マルケス(メキシコ)、ミゲール・コット(プエルトリコ)、シェーン・モズリー(アメリカ)といった現代を代表するトップ選手たちをことごとく打ち破ってきており、経験値も極めて高い。HBOテレビからショータイムに移籍するに際しては30ヵ月に6試合、合計で推定2億ドル(約200億円)という莫大な報酬の契約を交わしている。すでに初戦となった5月のロバート・ゲレロ(アメリカ)戦では1/6に相当する3200万ドル(約32億円)の最低保障報酬で試合を終えている。今回は課金システムのペー・パー・ビュー(PPV)の契約160万軒超えを最低目標とし、あわよくばメイウェザー自身が07年のデラ・ホーヤ戦で記録した245万軒超えを狙っている。その場合のメイウェザーの合計報酬は50億円〜60億円になると推計されている。直接的な金額だけでも一夜で200億円近い金額を動かすことになるのだから驚きだ。いまのメイウェザーにはそれだけの価値があるわけだ。
一方のアルバレスには将来性と可能性がある。13歳のときにボクシングを始め、アマチュアでは20戦(勝敗数は不明)を経験後、わずか15歳でプロに転向。23歳の若さにもかかわらず43戦して42勝(30KO)1分という豊富な試合数を誇る。11年3月に弱冠20歳でWBC王座を獲得し、防衛戦ではカーミット・シントロン(プエルトリコ)、モズリーらを下している。今年4月にはWBA王者だったオースティン・トラウト(アメリカ)にも判定勝ち、統一王者になっている。内容は接戦だったが、値千金のダウンを奪っており、その勝負強さをあらためて印象づけたものだった。
アルバレスもスピードやテクニックを兼ね備えた選手だが、この選手の特徴はなんといっても破格のパワーと馬力、怖いもの知らずの若さだろう。実績や経験値ではメイウェザーに二歩も三歩も譲るが、ポテンシャル(潜在能力)という点では底知れないものがある。
メイウェザーがスピードとあらゆる技術を駆使してアルバレスをさばくという見方が多いが、一方で若武者の体力と勢いが36歳のベテランを破壊するのではないかという見方もある。その比率は19対7というオッズに表れている。もちろんメイウェザー有利の数字ではあるが、最近のメイウェザーの5試合(マルケス戦=7対2、モズリー戦=9対2、ビクター・オルティス戦=7対1、コット戦=11対2、ロバート・ゲレロ戦=17対2)と比較すると、その差は極めて小さいことが分かる。「何かが起こる」と予想、あるいは期待しているファンも大勢いるのだ。
試合は、メイウェザー側の希望で154ポンド(約69.8ポンド)のS・ウェルター級リミットを2ポンド(約900グラム)下回る152ポンド(約68.9キロ)の契約体重で行われる。計量から試合前までの24時間で常に10キロ前後のリバウンドがあると伝えられるアルバレスが、ベストのコンディションをつくることができれば馬力で押し切る可能性も十分にありそうだ。
メイウェザーがあらためて天才ぶりを発揮するのか、それともアルバレスが新時代の扉をこじ開けるのか。1ラウンドから目の離せない攻防が展開されることは間違いない。
Written by ボクシングライター原功
サウル・アルバレス
S・ウェルター級トップ戦線の現状
WBA スーパー:フロイド・メイウェザー(アメリカ)
WBA :サウル・アルバレス(メキシコ)
WBA暫定 :エリスランディ・ララ(キューバ/アメリカ)
WBCダイヤモンド:フロイド・メイウェザー(アメリカ)
WBC :サウル・アルバレス(メキシコ)
IBF :イシェ・スミス(アメリカ)
WBO :空位 ※マーティロスヤン対アンドラーデで決定戦
フロイド・メイウェザー(アメリカ)はウェルター級のWBC王者でもあるが、S・ウェルター級でもWBA(スーパー王者)とWBC(ダイヤモンド王者)から特別な称号を授かっている。そんななか実質的なこのクラスの活動選手としては、サウル・アルバレス(メキシコ)がトップの座にいる。元トップアマのエリスランディ・ララ(キューバ)がこれに続くが、アルバレスとの差は小さくない。
戦線離脱のザウルベック・バイサングロフ(ウクライナ)が剥奪されたWBO王座は、10月にバーネス・マーティロスヤン(アメリカ)と08年北京五輪に出場経験を持つデメトリアス・アンドラーデ(アメリカ)で争われる。
ランカーでは元3階級制覇王者ミゲール・コット(プエルトリコ)、今年4月の統一戦でアルバレスに惜敗した前WBA王者オースティン・トラウト(アメリカ)が地力を持っている。
26戦全勝の「俊敏な男」 VS KO率86%の強打者
オッズは9対4でマティセ有利
この試合もメインに勝るとも劣らない注目度の高い好カードだ。
WBAのスーパー王座とWBC王座を保持するガルシアは26戦全勝(16KO)の25歳。昨年来、4階級制覇の元王者エリック・モラレス(メキシコ)に連勝、次世代のスーパースター候補アミール・カーン(イギリス)に4回TKO勝ち、元王者ザブ・ジュダー(アメリカ)にも判定勝ちと、飛ぶ鳥を落とす勢いにある。ガルシアは一見すると隙が多そうにも感じられるが、「SWIFT」(俊敏な男)の異名どおり一瞬の好機をとらえてダウンを奪い、勝利を重ねている。主武器はカーンやモラレスを屠った左フックだ。
対するマティセもタフな元3階級制覇者ウンベルト・ソト(メキシコ)に5回終了TKO勝ち、無敗だったアジョセ・オルセグン(ナイジェリア)に10回TKO勝ちを収めてWBCの暫定王座を獲得。マイク・ダラス(アメリカ)は軽く1回で一蹴し、今年5月には無冠戦でIBF王者レイモント・ピーターソン(アメリカ)を寄せつけず3回TKOに討ち取っている。こちらも6連続KO勝ちで乗りに乗っている。37戦34勝(32KO)2敗1無効試合のマティセはハンマーを思わせる硬質感のあるパンチを振るう強打者で、3ラウンド以内のKO勝ちを22度も記録している速攻型でもある。元王者のジュダーや現IBF世界ウェルター級王者デボン・アレキサンダー(アメリカ)には敗れたが、いずれの試合でもダウンを奪っており、「地元判定」の声もあったほどの僅差勝負だった。これらの試合では自身のタフネスとスタミナを証明してもいる。
攻撃型のマティセが仕掛け、ガルシアが左フックを中心にカウンターで迎撃するパターンが予想される。早い段階でマティセが一気に正面突破してしまう可能性もあれば、ガルシアの左フックが勝負を決める可能性もある。とにかくスリリングな展開になることは間違いない。オッズは9対4でマティセ有利と出ている。
Written by ボクシングライター原功