童顔のスナイパー VS テキサスの黒豹
序盤のフィゲロアは要注意
エイドリアン・ブローナー(アメリカ)がWBCのライト級王座を保持したまま6月にWBAのウェルター級王座も獲得。荒川が日本を発った7月17日時点では、まだブローナーはライト級王座を手放しておらず、よって荒川対フィゲロアは暫定王座の決定戦として行われる。
荒川は日本では「童顔のスナイパー」として知られる31歳のサウスポーで、日本王座、東洋太平洋王座を獲得するなど着実に階段を上がってきた。昨年11月にはメキシコでWBCの挑戦者決定戦に臨んだが、ダニエル・エストラダ(メキシコ)に不可解な10回負傷判定負け。裁定に不満の陣営が提訴してランキングが1位に据え置かれ、今回のチャンスを得ることとなった。荒川は丹念に右ジャブを突きながら得意の左ストレートに繋げるスタイルを確立している。一見すると正攻法だが、手合わせした相手は「フェイントが巧みなので、どこからパンチが出てくるのか、どのタイミングで打ってくるのか分からない」と話す。左はストレートを中心にフック、アッパーと角度と軌道を変えて打つことができる。不安があるとすれば序盤の戦い方だろう。主導権を掴むまでに時間を費やす傾向があり、そこを突かれて何度か浅いラウンドで窮地に陥ったことがある。荒川自身も「中盤から後半にかけてはペースをつくれると思うので、序盤をどう乗り切るかが課題。特に3ラウンドまでをどう戦うかがキー・ポイント」と話している。
対するフィゲロアは22戦21勝(17KO)1分の戦績が示すとおりの強打者だ。175センチ(180センチ説もある)の長身からワンツーを打ち下ろして攻め込む好戦的なタイプで、チャンスとみると一気に連打で襲いかかる。基本は右構えだが、試合のなかで左にスイッチすることもあり、相手にとっては戦いにくいタイプといえるかもしれない。アマチュアで約40戦を経験後、08年6月にプロ転向。7連続KO中の09年9月にオスカー・デラ・ホーヤ率いるゴールデン・ボーイ・プロモーションズ(GBP)と契約を結び、以後はGBPの庇護もあって順調に白星を伸ばしてきた。4月まではWBC33位だったが、アブネル・コット(プエルトリコ)との無敗対決を制したことで一気に3位まで上昇、今回のチャンスを得た。
相手が売り出し中のホープであること、試合地(テキサス州サンアントニオ)がフィゲロアの準ホームであること、プロモーターがフィゲロアを傘下に置くGBPであることなど、荒川にとって有利とはいえない材料は少なくない。「アウェイなので倒さないと勝ちはないと思っている」と荒川自身も厳しい状況であることは承知している。
若くて勢いのあるフィゲロアは、4月のコット戦を含め3ラウンド以内のKOを16度も記録している。スタートに課題を抱える荒川としては、序盤は要警戒といえる。ここで致命的なダメージを受けずに互角に近いかたちで中盤を迎えることができれば、荒川の大きく勝機は広がるだろう。攻防ともに雑な面も見受けられるフィゲロアの焦りを誘い、同時にボディを攻めて攻略の糸口を探りたい。
短期決戦ならばフィゲロア、戦いが長引けば荒川、といった分かりやすい勝負になるのではないだろうか。
Written by ボクシングライター原功
エイドリアン・ブローナー
ライト級トップ戦線の現状
WBA:リカルド・アブリル(キューバ)
WBC:エイドリアン・ブローナー(アメリカ)
IBF:ミゲール・バスケス(メキシコ)
WBO:リッキー・バーンズ(イギリス)
7月16日時点ではエイドリアン・ブローナー(アメリカ)がWBC王座も保持している。今後はWBA王座を持つウェルター級に正式に転向するのか、それとも再びライト級に戻すのか、あるいは中間のS・ライト級に活動拠点を移すのか注目される。
ほかの3人のチャンピオンは圧倒的な強さを誇るほどではないものの、安定した力を持っている。ただし、個人の魅力で大勢のファンを呼び込む力には欠けており、そういう意味では注目カードを組むことが重要視されそうだ。
ランカー陣では今回、荒川仁人(八王子中屋)と対戦するオマール・フィゲロア(アメリカ)と、WBOで1位につけているテレンス・クロフォード(アメリカ)の勢いが目立つ。3階級制覇を目指すホルヘ・リナレス(帝拳)も各団体で好位置につけている。