フィリピンの閃光 VS キューバの至宝
オッズは9対4でドネア有利
現在の軽量級で考えられる最高のカードといえる。WBO王者ドネアは「フィリピーノ・フラッシュ(閃光)」と呼ばれる強打のスピードスター。フライ級からS・バンタム級までの4階級を制しており、世界戦の戦績だけでも12戦全勝(8KO)という凄まじさだ。対戦相手の質も高い。ビック・ダルチニャン(アルメニア)、エルナン・マルケス(メキシコ)、フェルナンド・モンティエル(メキシコ)、オマール・ナルバエス(アルゼンチン)、ウィルフレド・バスケス・ジュニア(プエルトリコ)、西岡利晃(帝拳)らに圧勝し、そして直近の試合では5階級制覇王者ホルヘ・アルセ(メキシコ)を3回で葬っている。
間合いの取り方、相手との呼吸の計り方などにも長け、距離とタイミングのいいワンツー、そしてモンティエルやアルセを夢の国に送り込んだ左フックが主武器といえる。西岡戦で見せたようにインサイドから鋭く突くアッパーもある。普段は温厚なドネアだが、リゴンドーには珍しく敵意をむき出しにしている。昨年12月のアルセ戦前後に陣営同士で諍いがあったことが原因といわれる。「絶対に倒す」とドネアは宣言している。戦績は32戦31勝(20KO)1敗。12年間で30連勝中だ。昨年のトレーナー賞を総なめにしたロベルト・ガルシア・トレーナーとのコンビで、攻防技術に磨きをかけている。「S・バンタム級で自分が最強であることを証明したらフェザー級進出も考えている」と話している。よもやそこに慢心はあるまい。
一方、WBA王者リゴンドーは2000年のシドニー五輪、04年のアテネ五輪のバンタム級金メダリストとして知られる。このほか世界選手権など数えきれないほどの国際大会で優勝しており、「キューバ史上最高のボクサー」と評されている。アマチュア戦績に関しては386戦374勝12敗説、400戦以上で12敗説など諸説あるが、プロモーターが配布する資料には247戦243勝4敗と記されている。いずれにしても驚異的なレコードである。
28歳のときに亡命してプロ転向を果たし、これまで11戦全勝(8KO)を収めている。10年11月、わずか7戦目で世界王座を獲得し、現在は4度防衛中だ。サウスポーのボクサーファイター型で、瞬間のスピードとパンチのタイミングと切れ、並外れた防御勘などを備えている。試されていない点があるとすれば耐久力と競り合った状況でのスタミナであろう。前者に関しては戴冠試合のリカルド・コルドバ(パナマ)戦で右ジャブを合わされてダウンを喫していることや、直近のロバート・マロクィン(アメリカ)戦で2度ほど窮地に陥っていることなどから、決して打たれ強いタイプではないものと見られている。
ドネアが積極的にプレッシャーをかけ、サウスポーのリゴンドーがカウンターを狙うかたちで試合が始まる可能性が高い。ドネアは左のジャブで煽るのか、それとも右ストレートで切り込むのか、あるいはフェイントをかけておいて左フックを狙うのか。これに対しリゴンドーはドネアのどのパンチに左を合わせるのか、どのタイミングで右フックを引っ掛けるのか。狙うのはアゴなのかボディなのか。目に見えるパンチだけでなく相手の呼吸まで図るハイレベルの息詰まる攻防が展開されそうだ。ゴングが鳴った瞬間から一瞬たりとも目の離せない試合になることは間違いない。
プロでの実績と経験に勝るドネアが9対4のオッズで有利と見られているが、リゴンドーにも一発で試合を決めるパンチがあるだけに予想は極めて難しい。1ラウンドに一発で決着がつく可能性もあれば、ともに警戒して見合ったまま12ラウンドが終了する可能性もある。観戦する側もなにが起こっても驚かない覚悟を決める必要があるだろう。そういう極上のカードである。
Written by ボクシングライター原功
<資料>ドネア、リゴンドー 両選手のデータ
TALE OF THE TAPE
ドネア | リゴンドー | |
---|---|---|
1982年11月16日/30歳 | 生年月日 | 1980年9月30日/32歳 |
フィリピン/アメリカ | 出身地/現住地 | キューバ/アメリカ |
86戦78勝(8KO,RSC8敗) | アマ戦績 | 247戦243勝4敗 |
ジュニア五輪全米優勝 00年全米選手権LF級優勝 | アマ実績 | 00年シドニー&04年アテネ五輪B級優勝 01年&05年世界選手権B級優勝 |
169センチ/174センチ | 身長/リーチ | 164センチ/168センチ |
右ボクサーファイター型 | タイプ | 左ボクサーファイター型 |
32戦31勝(20KO)1敗 ※世界戦は12戦全勝(8KO) | 戦績 | 11戦全勝(8KO) ※世界戦は5戦全勝(3KO) |
ノニト・ドネア
S・バンタム級トップ戦線の現状
WBA:ギジェルモ・リゴンドー(キューバ)
WBA 暫定:スコット・クイッグ(イギリス)
WBC:空位
IBF:ヨナタン・ロメロ(コロンビア)
WBO:ノニト・ドネア(フィリピン)
WBO王者ノニト・ドネア(フィリピン)とWBA王者ギジェルモ・リゴンドー(キューバ)が双璧といえる。どんな内容であれ今回の試合で勝利を収めた方が実力ナンバー1として認められることになる。
アブネル・マレス(メキシコ)が返上したWBC王座は、ビクトル・テラサスとクリスチャン・ミハレスのメキシカン同士で決定戦が行われる。大舞台の経験とテクニックで勝る元S・フライ級王者ミハレスが有利か。ウィルフレド・バスケス・ジュニア(プエルトリコ)、ビック・ダルチニャン(アルメニア)、アレクサンデル・バクティン(ロシア)、ウーゴ・カサレス(メキシコ)といった日本に馴染みの選手も好位置につけている。
こうしたなか、3階級制覇を狙う長谷川穂積(真正)、返り咲きを狙う下田昭文(帝拳)も年内には王座に絡んできそうな気配だ。